部屋にはまーくんが鼻を啜る音だけが響く。重苦しい雰囲気の中、俺は今し方の自分の発言をそれはもう海よりも深く反省していた。 「てめぇ、猿飛とか言ったか…」 「へ、ああ、はい、えっと…」 俺ってば感情に任せて突っ走るとか今までしたことないんです。本当に。いつだって狡猾に、損得勘定で生きてきたんです。だから今だってこんな状況に陥ったこと事態驚きで、なんて言うかお願いだから殺さないで下さい。殺気収めて下さい。 「、こじゅ…」 SP片倉からの殺気をいとも簡単に消し去ったのは、胸元から聞こえてきた小さなまーくんの声だった。 「政宗様、」 「こじゅ、佐助、悪くないぞ」 「しかし!」 「悪いの、お、俺だろ」 言葉にするなら、『ふるふる』。 体もふるふる揺れてるし、声もふるふる揺れてる。ついでに言うと濡れた睫もふるふる揺れてる。 「そうお思いなら、今すぐ小十郎と帰りましょう。」 SP片倉のその一言に、ふるふるしてたまーくんが、きっと目を鋭くさせ(怖くはない。全く。)、小さい子が駄々をこねるような、癇癪を起こしたような、とにかく興奮した雰囲気で今までぐずぐず泣いてたのが嘘みたいにSP片倉に声を荒げた。 「こじゅはっ!俺が学校でなんて言われてるか知らないだろ!せ、世間知らずとか、常識知らず、とかぼんぼん、とか、う、うい、浮いてるって言われたぞ!『らーめん』食べたことないなんておかしいって!俺、おかしいんだって!」 「ま、まーくん、ストップストップ!ほら、片倉さんが…」 背中をぽんぽんとしてやると、まーくんは弾かれたように俺を見て、もう一度SP片倉を見て、困ったように眉毛を下げた。一方SP片倉と言えば、もうほんと自分の不注意で人を殺してしまったかのように絶望しきった顔でまーくんを見ている。ちょっと誰か助けて。なにこの状況。ヘルプミー! 「えっと…」 どうにか突破口を開こうと声を出してみると、ぎろりとした鋭い目つきのSP片倉と目が合った。防衛本能でゆっくり目を反らすと、おい、とドスのきいた声がかけられた。 「政宗様が泣いてる理由を知りたいと言ったな。」 「え、ええ、まぁ…」 「理由は今政宗様が仰った通りだ。」 話せば長くなるが、と言ったSP片倉の説明は本当に長かったので俺が簡単にまとめさせて頂くと以下のようになる。 まーくんは、知っての通り、大金持ちのご子息。それはもう、甘やかされて蝶よ花よと育てられました。その為人格を形成する最も大切な時期に彼の周りには良くも悪くも味方しかいなかったのです。辛いことを一切知らずに育ったのです。 「素直で愛らしく、聡明な政宗様は伊達家の全てだった。しかし旦那様はそんな政宗様を見ていつか悪い人間に騙されたり、傷つけられたりするのではと心配するようになった。だから高校からは、一般庶民と同じ学校に通わせたってわけだ。」 そしてその一般庶民の学校では、まーくんと周りの子に埋められない程の感覚の差があり、とうとうまーくんは浮いてしまう。でも家族には相談できない。そこでまーくんは、どういう経緯で知り合ったのかは不明だが、唯一家族以外の知り合いであるチカちゃんを頼って来たのだそうだ。 「くっ…俺がふがいないばかりに…」 今にも腹をかっ捌きそうな顔のSP片倉と、今にも泣き出しそうなまーくんを交互に見て、俺は真剣に付いていけそうにないな、と思った。 |