ぐずりながら話すまーくんの言葉を理解するのは非常に難しかったわけですが、唯一、よくよくわかったことといえばまーくんは大して経済に詳しくない俺ですら知っているような大会社の社長の息子さんで、正直言って、住む世界が違うということ。 そしてその環境が他人から妬まれしばしば疎まれる原因となった為俺に家のことを話せば嫌われるかもしれないと思った、ということ。 「まぁさすがに金持ち過ぎて引くけどさ、」 まーくんを再び寝かしつけぼんやり天井を見ながら考える。きっと日が昇れば世話役とやらはこっちへ来るだろう。まーくんはおうちに帰りたくなさそうだし、親ちゃんも帰したくなさそうだった。余程酷い家庭環境なんだろうか。俺には検討もつかない。 そんなことをぼんやりと考えてたら、突如響いたインターフォンの音。時刻は午前四時。こんな常識外れの時間にやって来る奴なんて俺の周りにはたくさんいすぎて検討もつかないことを少し悲しく思いながらバイト上がりの慶ちゃんが賞味期限切れのお弁当でもお裾分けに来たのかな、とドアを開ける。せっかくだから事情を話してどうしたらいいか考えてもらおう、うん。 「はいはーい!言っとくけど牛カルビ弁はオレ様がもらうからね。」 「……」 いつものようにうざったいくらいの元気の良い声が聞こえないことに一抹の不安を覚えて、真っ暗な為によく見えない相手を凝視する。 「けーちゃん、だよね?」 「片倉だが、」 「わっ、す、すみません、」 慌てて玄関の電気をつけて凍り付く。頬の傷、固められたオールバック、鋭い目つき。どこをどうとってもその筋の人にしか見えない人が、うちのボロいアパートの玄関に立っている。俺、なんかしたっけ…? 「おい、」 「は、はい、」 思わず背筋を伸ばして返事をしたけど俺に疚しいことはないし、こんな常識外れの時間にやってきたこの人こそもっと申し訳なさそうな顔をするべきだと思う。しかしやっぱり怖いものは怖いのでぶつけてやりたい不満を喉の奥底に留めると、ぽすん、と腰にあたたかいものがぶつかってきた。 「まー」 「政宗さま!!!」 目の前の男に俺の声はかき消される。腰元を見ればさっきまで寝てた筈のまーくんがぴったりとくっついていた。 「こじゅ…」 ああ、この人が。世話役というよりはSPに近いその人は先ほどまでの厳しい表情とは打って変わって心底心配そうな顔をしている。 「政宗さま、小十郎と帰りましょう。」 「っ、」 「まーくん、」 世話役(片倉だっけ?)が少し屈んでまーくんに視線を合わすもまーくんはぐずり出してしまう。そりゃこんな怖い顔なら仕方ないよ。俺は体を捻ってまーくんの頭を撫でてやる。 「まーくん、ほら泣かないのー」 「政宗さま、どうなされたのです。小十郎がわかりませぬか?」 「うー、こじゅは分かる、ひっく、けど、」 近所迷惑を考えて、ぐずりだしたまーくんを取り敢えず引きずるようにして部屋へと戻る。後ろからSP片倉がてめぇもっと丁寧に扱いやがれ政宗さまだぞ、と怒気を含んだ声で言いながら追いかけてくる。あぁ、また小さな我が家が賑やかになってしまった。 |