ペットを飼うことになった。奇抜な髪に痩せた体、ひょろりと長い背。名を佐助といった。 「政宗、起きた?」 ぼんやりとした意識が佐助の声で覚醒する。俺は突嗟に手で顔の右側を隠して、佐助を睨む。こいつは躾も何もあったもんじゃないから悪びれることなく怒んないでよーと間延びした口調で言った。 「なんで隠すかねぇ。俺は只のペットでしょうが。」 「やめろ、こっち来んな!」 枕でも投げてやりたかったが震えだした体が言うことを聞かない。佐助は困ったように笑ってそれ以上近づくことを止めた。 「ま、いいけど。早く餌頂戴ね。ペットは腹がぺこぺこです。」 佐助が部屋を出ると震えが止まるのを見計らって眼帯をつけ服を着替える。そしていつまでたっても右目に縛られている自分にどうしようもなく呆れた。 リビングに行くと佐助が黒革のソファに我が物顔で寝そべっていた。犬や猫のように主人が来たからといって寄り添ってくるような奴でないことなど疾うにわかっているから俺は気にすることなくトーストした食パンにマヨネーズを塗りハムとレタスをのっけ、簡単な朝食を作る。コーヒーを煎れれば薫りで準備が出来たとわかったのか佐助がソファに座り直した。 「いただきます。」 テーブルに食事を置き、ふたりで食べ始める。待て、とも、よし、とも言ってないがそこらのペットと違うことくらいわかりきっていることなのでやはりなにも言わないでおく。そんなことより俺の思考は今日一日の憂鬱な予定についてで沢山だった。今日は実家に顔を出さなくてはならない。俺の、実家。考えただけで体が強ばる。右目が疼く。 「そんなに実家に帰るのいやなの?」 じわりと汗をかいた。突然の声に驚き顔を上げると佐助の飄々とした笑みが視界に入る。何故実家のことを知っているのかなんて聞く余裕もないくらい目がくらくらしてくる。 「なんで知ってるのか気になる?てゆうか顔色酷いよ。ちょっと横になろう。」 「やめ、」 すくりと立ち上がり俺の肩に腕を回してきた佐助をどうにか払いのけようとするが思った以上に力は強く、そのまま横抱きにされて先ほどまでいた寝室に戻される。ベッドに寝かされて頭を撫でられても俺の混乱した頭は落ち着くことなど無い。 「なんで、お前、なんなんだよ一体、」 「んー?まぁまぁそんながたがた震えちゃって、可哀想に。」 「質問に、こたえろっ」 出来る限り鋭く睨みつければ佐助は頭を撫でていた腕を止め、だから怒っちゃやだって、とにこりと笑った。刹那、俺はぞわりと、こいつに出会ったときのようになんとも言えない奇妙な感覚に囚われた。 「ちゃぁんと答えてあげるよ。どうして俺が政宗の名前を知っていたのか、政宗が実家を嫌いなことを知ってるのか、全部ね。」 耳元で囁かれた言葉に俺は息をすることも忘れて聞き入る。佐助はそんな俺を満足そうに見つめると唇を重ねてきた。生温かな体温に吐き気がした。 「俺はね、」 唇を解放され、小刻みに息を吸う。垂れかけた唾液を佐助が指ですくった。 「政宗なんかより、もっともっと暗くて汚い生き物なんだから、怖がらなくていいんだよ。言ったでしょ?ペットだって。」 俺はそのとき初めて自分から佐助の背に腕を回した。 |