まーくんが俺の背中にコバンザメのようにぴたりとくっついて眠った頃、俺の携帯のバイブが着信を伝えた。時刻は午前一時、ディスプレイには長曾我部元親の文字。厭な予感しかしないけれど、出ないわけにはいかないので仕方なく通話ボタンを押せば、いつもより控えめな親ちゃんの声がした。 「親ちゃん、なんの用?てゆうか時間考えてよ。」 『あぁ、悪い。だがよ、ちっとばかしマズいんだわ。』 「俺言ったよね、面倒事はお断りって。」 『そう言うなよ、乗りかかった船じゃねぇか!』 無理矢理乗せられた船じゃんと抗議する間もなく親ちゃんは喋り続ける。 『実はよう、政宗の家のな、まぁ、なんつーか、世話役みたいな感じか。そん人から連絡があってな、』 「なんだ、連絡あったならよかったじゃん。」 てゆうか世話役ってなんだよ。そんなマンガみたいな言葉実際あるんだ、なんて考えていたら親ちゃんがなにやらごにょごにょと言い淀んでいる。あの、なんかすげぇ嫌な予感するんですが。 『その世話役の人が政宗のこと溺愛しててよ。どういう訳かお前んとこで匿ってるのがバレたらしい。そのうちやってくると思うから気ぃつけろよ。じゃぁな!』 「は?ちょ、ふざけんな、」 俺の言葉を遮って無情にも切られる電話。いやいや待って。なにこれどんな罰ゲーム。てゆうかなんで赤の他人に俺の家バレてるの?プライバシーは? 「こじゅ、」 はっとして後ろを向くとコバンザメをしてたまーくんがじぃと俺の方を見ていた。 「あ、まーくんごめん。起こしちゃったね、」 頭を撫でてやってもまーくんは目を閉じようとしない。それどころかいつもはすぐ逸らされる瞳がずっと俺を見ている。 「なに?なんかまーくん変だよ。」 「こじゅ、来た?」 「こじゅ?」 もしかしてこじゅって、今の俺と親ちゃんの会話からして世話役の人、なんだろうか。まーくんは自分の鞄から携帯を出して着歴画面を俺に見せた。 「て、なにこれ…」 画面いっぱいの『小十郎』の文字。まーくんがうちに来た辺りから三十分おきくらいに着信がある。 「ちょ、まーくん。出てあげようよ。怖いよ、」 どの着信も不在になっているからまーくんはこっちに来てから一度も出ていないみたいだ。それでもまーくんはふるふると頭を左右に振るだけ。 「まーくんこの人嫌いなの?」 そう訊ねればまーくんの顔は途端に泣きそうになってまたふるふる頭を左右に振る。 「ちが、こじゅは、すき。でも、」 「あーほらほら泣かない。そっかそっか、好きか。」 膝に乗っけて背中をぽんぽんしてやる。好きとか羨ましいなちくしょうなんて思ってない。 「じゃぁなんで出ないの?小十郎さんも心配してるよ、きっと。」 「だ、てっ、さ、さすけ、おれのこと嫌いになる、」 あ、やばいムラっときた。すごくムラっときた今。なんで小十郎さんの電話に出ることで俺がまーくんを嫌いになるのかいまいちわかんないけど今すっごいムラっときた。 「俺がそんな簡単にまーくん嫌いになるわけないじゃん。だから、ね?ちゃんと話して?」 そう言ってやればまーくんはぐずつきながらも小さく頷いた。 |