愛するってどんな感じなのかしら、と市が呟けば隻眼の青年はそれを少しも笑うことなく真摯な態度で、しかし困ったように答えた。 「どんな感じって、そりゃぁ人それぞれで、」 「そうなの?なら貴方は?」 無垢な表情で訊ねられ、青年は恥ずかしいなぁと思いつつも考えられる『愛する』を言葉にする。あったかくて、きゅうってして、どきどきして、ふわふわして、ほわほわして、そんな言葉を並べれば目の前の市は少し怪訝そうな顔で愛って難しいのね、と云った。 「市も何か愛してみたいわ。」 「……お前は、」 市がね、愛そうと思ったものは何だって崩れてしまうの、市は災いをもたらすのかもしれないわねと儚く笑う彼女に、お前はあの男をちゃんと愛していたじゃないかという喉まででかかった言葉を抑え込んだ。虚ろな瞳の彼女にとってそんな言葉はなんら意味をもたないだろうと哀しい気持ちになりながら。 「きっとお前にも愛することができる。だからそんときゃ教えてくれよ。」 そう云って青年が市の額にキスすれば、市も青年の顔にかかる濡れ羽色の髪を払いその額にキスをした。 「うん。きっときっと伝えるわ。」 友情のキスなんかよりももっとあたたかな、優しいキスが彼女に降り注ぎますようにと青年は祈った。 禍言 市とピロートーク。 |