なぁ抱きしめてみてもいいか、という言葉に青年は隻眼をぱちりと開いた。家康は聞いておきながら、返事を待たずにその青年を胸に抱きしめた。 「相変わらず細い腰だ。」 「お前はいつの間にか逞しい体躯になったもんだ。」 「ははは、お前に釣り合うようになりたかったのかもしれん。」 そう言って笑うわりに、家康の声は少しも弾んでいなかった。青年はふ、と目を伏せ、夜に浮かぶ月のように美しい男を思い出した。 「そういうことは本気で惚れてるやつに言うんだな。」 「本気かぁ、うん。そうだな。でも儂はお前のことも本気で好きだ。」 「その好きは違うだろ?」 きっぱり青年が言えば、家康は困ったような顔をして抱きしめていた腕を弛め、青年の整った顔をまっすぐに見た。 「好きだ。愛している。そう言えたら、良いのにな。」 「言ってみればいい。」 「お前のように素直じゃないんだよ。」 悲しげな顔をした家康は、濡れ羽色の髪に触れ、優しく優しく指を通す。青年はその優しい手つきであの男にも触れてみればいいのにと思いながら黙っていた。家康の顔は、溢れんばかりの想いを無理矢理に押さえ込んでいるように見えた。 「告げないと決めているなら、そんな顔するな。」 「はは、すまん。」 青年が言うと、家康は笑う。 「俺は謝って欲しいわけじゃねぇ。ただお前のそういう顔は…苦手だ、」 その言葉に家康は目尻を下げて、青年をさきほどのように抱きしめた。息がしづらいという抗議も無視して家康は片方の手で頭を撫で回す。 「やっぱりお前は優しいよ。」 「はぁ?」 「だからなぁ、儂が胸に秘めておけないときは、たまにこうして抱きしめてもいいか?触れてもいいか?」 あたたかい腕の中、青年はうまい返事が見つからないままこくりこくり、と眠りについた。 秘め事 家康とピロートーク。 |