普段は纏めている艶やかな髪をシーツに広げ、女はね、いつだって口づけして欲しいのよ、と濃姫は笑った。 「あんたもそうなのか?」 「私?私はあの方から与えられるものならなんだって嬉しいわ。」 そう言いながらも濃姫は、情事の際あの人が一度でも接吻をしてくれたことがあったかしらと考えて、ほんの少し虚しくなる心を誤魔化すように妖艶に笑ってみせた。しかし濡れ羽色の髪の青年が見透透かしたように、哀れむように自分の瞳を見つめてきたことで濃姫は本当に虚しいことを否応なしに気付かされた。 「私を可哀想だと思うの?」 「いや…縋りつけるだけあんたは救われているさ。」 俺は拒否されるのが怖かったから、と自嘲する青年を濃姫は聖母のごとき優しい仕草で抱きしめた。 「そうね、否定されるのは恐ろしいものね。」 「あぁ、」 「それでもね、私はあのお方を信じていたのよ。」 愛してくれていなくても良い。ただこの名前を呼んでくれたならば、睦み合うことも接吻さえなくとも私は幸せだったのよ、と子守歌を唄うように囁いた濃姫の心音を聞きながら青年は眠りについた。 艶事 濃姫とピロートーク。 |