こたつでみかん | ナノ


寒い冬の過ごし方.1

びゅうびゅうと容赦なく、北風が俺たちの体を冷やす。朝9時の日差しはまだまだ優しくなくて、俺は太陽に向かってもっと輝いていいんだよ、と念を送った。ふ、と横を見てみると政宗も薄い雲に覆われて鈍く輝く太陽をじぃと見ていたのできっと念を送っていたのだろうと思う。さぁはやく干しておこたでコーヒー飲もうと声をかけると政宗はそそくさと洗濯カゴからバスタオルを取り出し干した。二人分の洗濯物を二人で干せばすぐに終わり、政宗はまっさきにこたつに潜り込んだ。
「もう、ねこじゃないんだから、」
ブラックコーヒ
ーとミルクたっぷりのカフェオレをいれて俺もこたつにはいる。俺の胡座をかいた足の上にもそもそとこたつから這い出て、乗ってくるのはいつものこと。
「あ、みかんないね。」
「ん。でもみかんとcoffeeは合わないからいい。」
「それもそうだ。」
朝7時の緊迫したニュースとはひと味違うこの時間独特のどこかのんびりとしたニュースを見ながらコーヒーを飲む。
「佐助、ぎゅう、しろ」
「はいはい。わがままさんだなー」
コーヒーを置いてぎゅうと抱きしめてやると政宗もコーヒーを置いて、からだをぐ、と捻って俺の首に腕をまわしてきた。甘えたかわいい。
「ねえ政宗、」
「ん?」
「やっぱみかん買いに行こう。」

こたつでみかん


寒い冬の過ごし方.2

無理矢理こたつから這い出てどうにかこうにか部屋着を着替える。この時期のジーンズの冷たさは凶器とも言える、と政宗がぼやく。
「えっとーエコバッグ持ったしエコポイントカード持ったし財布持ったし、」
「カイロ!」
「持ったし。」
紺色のピーコートを羽織って耳当てまでしてる政宗を見て俺は即座に耳当てを外す。
「わ、ばか何しやがる!」
「だぁって耳当てなんかしちゃったら俺の声聞こえにくいでしょ?」
寒い外で一人でぺらぺら喋るなんてまっぴらごめんさ!
「耳冷えるだろうがよ。痛いのやだ俺、返せ。」
「いざとなったら舐めます。舌は温かいでしょ。」
きっぱり言い切るときめぇ!って言われたけどやらしいことしてるとき耳舐められてあんあん言ってるの忘れたとは言わせない。

耳は痛いくらい


寒い冬の過ごし方.3

外は寒いくせに雪なんか降ってなくて(降ったら降ったで気が滅入る)少しもロマンティックな朝ではないけど朝にロマンを求めるのもどうかと思うし今は朝というより昼に近いし俺はロマンチストでもないから結局のところどうでもよかった。
「スーパーで買い物したら、帰りにさ、コンビニで肉まん食べようよ。」
「Good idea!俺ピザまんな!」
「プリンまんじゃなくて?」
「今はピザまんの気分なんだよ。」
途端に機嫌がよくなる政宗はこどもみたいでかわいい。ピ、ザ、まーんとリズムよく口ずさむのもかわいい。
「冬場に肉まん食べ歩きするのってなんかいいよねぇ。」
「ロマンだよな!」

肉まんロマン


寒い冬の過ごし方.4

ふたりでぷらぷら歩きながら近所のスーパーへ入る。
「折角だし晩ご飯の用意買って帰るか。鍋でいいか?」
「いいよー温まるし!」
佐助がカゴを持ち、政宗は慎重に野菜を選ぶ。
「本当料理には真剣だよね、政宗って。」
「特に野菜は小十郎に言われてるからな。それにあいつの野菜にあわせるなら生半可な野菜じゃ駄目だ。」
生半可な野菜ってなんだよ、と思いながらも周りの奥様より断然美しい恋人を嬉しく思い佐助は政宗についていく。
「んー魚今日はいまいちだな。」
「そうなの?俺様よくわかんないけど。」
政宗は暫くううんと考えて携帯を取り出したかと思えば電話を始めた。
「あ、ちかか?今日な、魚なんだけどよ、うん、うん。そ、あんまり。うん、まじか!Thanks!うん、は?あー…んーだよな、okay、じゃ!」
電話を切るとみかんだけカゴに入れて政宗がレジに向かう。
「魚は?」
「ちかが持ってきてくれるって!」
「まじで?やったねー!」
「うん、そん代わりな?」
「ん?」
「ちかも鍋食っていくって。」

今夜は鍋パーリィ


寒い冬の過ごし方.5

「みかんだけのつもりだったのにいっぱい買っちゃったね。」
俺と政宗の両手には本日の食材とお酒がぶら下がってる。重い。
「ちかも真田もよく食うし、家康来るかもなら余分に用意しといた方がいいからな。」
「俺達ふたりきりなら袋一個なのにねぇ、」
親ちゃんが来るというので折角だし鍋パを開催することになった。連絡したところ慶ちゃんはバイトで就ちゃんは試験前に馬鹿か貴様等で徳川の旦那はバイト後いけたら来る、とのこと。勿論女性陣へのお誘いは惨敗だった。
「でもこんな両手に荷物持ってたら肉まん食べれないね。」
「買って帰ったらべしょべしょになってるしな、」
せっかくの楽しみをなくした俺達は、仕方ないけどそのまま帰路へつくことにした。すると後ろから、ぴーだかぷーだか音を鳴らしてのろのろ軽トラがやってくる。
「あ、政宗!」
「ん?」
「焼き芋買ってこ!」

冬の醍醐味


寒い冬の過ごし方.6

「うんまー!!」
ほくほくの焼き芋をおこたで食べる。熱いお茶も煎れて、完璧だ。政宗は皮がうまくむけないみたいでちびちび食べてる。
「これさ、色がきれいだよね。」
「んー」
「普通にさ、蒸かしたりレンジでチンじゃこの色にはならないよね。」
「んー」
「……政宗って料理上手なのにわりと不器用だよね。」
「う、うっせー!」
どうしてそうなったと言わんばかりに焼き芋がヒョウ柄みたいになってる。俺なら気にせず食べるけど神経質な政宗は皮が食べれないから格闘してる。
「ほらもう、さっけさんの食べな。冷めちゃう。」
「う…thanks…」
ヒョウ柄をむきながら横目でちらり。しゅんとしていた顔が焼き芋をぱくりとした瞬間きらっきらに輝く。もーほんとかわいいんだから。
「おいしいねー」
「な!」

黄金色の誘惑

寒い冬の過ごし方.7

ぐつぐつ。
「親ちゃん。」
ぐつぐつぐつぐつ。
「元親殿、」
ぐつぐつぐつぐつぐつぐつ。
「ちか、いいだろ?」
「だー!!おめぇらうっせぇ!」
菜箸を持ったまま怒鳴りつける親ちゃんは見かけによらず鍋奉行だ。でももうそろそろ、いいと思うんだけど。
「しゃぁねぇ奴らだな、全く。おら、野菜から食っとけ。」
「いただきまーす!」
湯気の立つお鍋に箸がのびる。と同時にインターフォンの音。政宗がぶつくさ文句を言いながら玄関に向かう。それと同時に魚介類解禁令が鍋奉行から出たので旦那も俺も迷わず牡蠣に狙いを定める。すると親ちゃんったらどこまで政宗に甘いんだか、牡蠣と鱈を政宗の器にせっせと入れてやっている。
「鍋奉行さま、贔屓はダメだよ。」
「そうでござる。その牡蠣は某が狙っておりました。」
「お前等本当にうるせぇ。」

鍋奉行の言うとおり寒い冬の過ごし方.8

「おっ、やってるなぁ!」
少しの冷気を連れてきたのは徳川の旦那だった。さっきのインターフォンはどうやらこの人らしい。
「おう家康!丁度食べごろだぜ。」
「寒かったでしょ。こたつどうぞ〜」
「政宗殿、元親殿がよそって下さいましたぞ。」
小さなおこたにぎゅうぎゅうで座る。鍋をつつけば暑いくらいになる。
「そうだそうだ。忘れるところだった。」
親ちゃんが火を弱めたあたりで徳川の旦那ががさごそとリュックを探りだした。出てきたのは大量の酒、酒、酒。
「わかってんじゃねぇか家康!」
「はは、元親がいるなら酒は外せんと思ってな。」
「おし幸村、飲み比べすんぞ!」
「望むところです、政宗殿!」
「え、ちょ政宗、」
「いいじゃねぇかたまには!おらおら佐助も飲めよ。」
グラスに注がれた第三のビールは相変わらず俺の舌には合うけれど、俺は自分の斜め前にいる政宗がそれはもう大変お酒に弱いことをよくよく理解しているわけで。
「負けた方が勝った方の言うこと聞くことな!」
「承知した!」
「だめー!!!!」

お酒入ります

寒い冬の過ごし方.9

「ん…」
「おはよ。」
「あれ…おれ、」

時刻は午前三時過ぎ。つい先ほどまで繰り広げられていた鍋パーティはメンバーの就寝によって終了したけど、どうやら戦線離脱していた政宗がお目覚めのようだ。

「覚えてない?旦那と飲み比べするーとか言って、二杯目で完全に酔っちゃって一人おやすみしてたんだよ。」
「…まじか。」
「だから言ったじゃん、やめときなって!」

〆の雑炊も食べずに寝こけた政宗は悔しそうに口先を尖らしてる。なにそのぶりっこ。かわいい。

「で、もうみんな寝ちゃったし。」
「男五人で雑魚寝とか。」

政宗の一言に俺も苦笑い。まぁ酷いときはもっとたくさんいるときもあるんだからこれでもマシと言えばマシなのかも。そんなことを考えてたら、そう言えば、と政宗がこっちを向いた。

「お前まだ起きてんの?」
「んー片づけちょっとしてたんだけど。」
「あ、悪ぃ。手伝う、」

起きあがろうとした政宗の肩を押さえて俺もぱたんと横になる。政宗の体はあたたかい。

「佐助?片づけは?」
「明日でいいや。」
「ふーん。」

ふたりで一枚の毛布にくるまる。高校生の男女なら、盛っちゃうような状況だけど生憎俺たちふたりにそんな元気なかったし、寝ているとはいえ旦那の教育上よくない。

「冬も終わるねー」
「そうだな。」
「もう春か。」
「春か…慶次あたりが花見とか騒ぐんだろうな。」
「次はもう無謀な飲み比べしちゃ駄目だからね。」
「……」

時計の音と、みんなの微かな寝息。

「春には花見して、夏には海でバーベキューしたりして、秋は紅葉見て、冬にはまた鍋パしようね。」
「そうだな。」

微睡む約束




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