未知なるおでん | ナノ

なかなかに絆されている、俺様です。

「まーくんお昼ご飯にしようか。」
コンビニから帰ってきて靴を脱ぎ捨て急いで上がる。家の下のコンビニには人の恋愛事情にうるさい友達が働いているからつっこまれないようにとまーくんをおいていくことにしたんだけど、俺の服の裾を掴んで泣きながらふるふると首を振っているまーくんをおいていくのはさすがの俺にも至難の業だった。俺がいない間に帰りたくなったら鍵を閉めてポストに入れておいてねと言ったけどどうやら帰った形跡は無く鍵も開いていたので俺は部屋で毛布にくるまってぐずっているであろうまーくんに向かって声をかけた。
「じゃーんおでんです。」
ぱかっと蓋を開ければほわほわと湯気が立つのをまーくんが毛布にくるまったまま興味深そうに視線を向けてる。手招きすればもぞもぞと立ち上がって俺の足の間に座り込んだ。
「どうする?なにがいい?」
「……」
おでんの容器をまーくんに見せてもまーくんはじいとそれを見つめるだけで何も言わない。まぁ口数が異常に少ないのは昨日からわかっているんだけど何が食べたいかくらい言って欲しい。好きなものは先に選ばしてやりたいじゃない。
「あ、もしかして何入ってるかわかんない?えっとねーたまごと湯葉に牛すじでしょ。だいこん、白滝、たこ、じゃがいも、ちくわとごぼ天、あともちきん!」
どう?と言っても口を噤んでいるまーくんを見て俺はふと一つの仮定をしてみる。もしかして、そんなことないとは思いますけども。いやしかし、万一。
「まーくんおでん知らないの?」
肩がびくりと跳ね上がり、目にじわっと涙がたまる。言葉はなくても、肯定。
「あー泣かない泣かない。よしよしさっけさんが選んであげよう。」
おでんの蓋に食べやすい大根をのせてお箸で四分の一に割ってやる。ふーってしてからはい、あーん。
「あち、」
はふはふしながら咀嚼するまーくんは幼くてかわいい。どうやら大根は嫌いじゃなさそうなのでもう一口口元に近づけると赤い唇が開いてゆっくり大根を食べた。それを見届け俺も大根を食べる。おでんはやっぱしセブン、てね。
「おいしーねー」
こくりと首が揺れる。てゆうかおでん知らないって普通に生きててありえる?なんかもうまーくん不思議。かわいさからして地球外生命体の可能性ありえる。

おでんを食べ終わり、まーくんを向かい合わせに座らせる。あったまったのか白い頬が赤い。俺はそんな滑らかな頬を撫でながら意を決して質問をぶつけることにした。だってまーくん高校生でしょ。ずっと家出ってすごくまずいじゃん。
「まーくん、言いたくなかったらいいんだけどね。あのさ、まーくんは、お」

うち嫌いなの?とつづけようとした言葉は喉まできて止まる。
まーくんの顔が途端に緊張した面もちになったからだ。俺は笑いかけて頭をなでなでしてどうにか緊張を解しながら再度試みると。
「で、まーくんってお」
「ぐすっ、」
あ、無理ですこれ。
「お…お、おでんの具何が一番おいしかった?」
自分でも口が引き攣るのがわかる。剰りにも苦しいでしょ今の。おかしいな、こういうかわし方とか得意な筈なんだけどな。まぁ、まーくんのぐずりが悪化しなくてよかったか、と思い直せばぽそりと鼻を啜る音と共に一言。
「おも、ちがびょーん、てなる、やつ」
もちきんね!
俺はふうと息を吐いて不思議そうにうるうるの目で見つめてくるまーくんに向きなおる。甘やかしてちゃ駄目だろうと思うけれど、こんなかわいいこ甘やかせない人間がいるならその鋼のような心になる方法を是非とも教えて頂きたいもんだ。

(ま、子供の家出だし、)

俺はまーくんのおでこにちゅ、とキスを落としてあれはもちきんて言うんだよ、と教えてあげた。


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