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(罪悪感なんて、痴がましいでしょ)

そう思ってた筈の俺は、それでもやっぱり罪悪感だったのか自己満足なのか次の日の昼休み政宗のクラスまで様子を見に行っていた。しかし教室にその姿は無く俺は適当な女子に行き先を聞き、あやふやな回答を元に柄にもなく学校中を探し回り結局政宗を発見したのは五限目開始五分を過ぎた頃だった。体育以外で久々に掻いた汗はじっとりとしていて不快だ。

音楽室などの特別教室がある南館の最上階のトイレに政宗はいた。一番奥の個室から上半身を出した状態で横に倒れており、全身はびしょ濡れで口元には吐寫物があった。その体はあの日より痩せ痩けたようでスラックスがぶかぶかであった。そんな異様な光景に3階の音楽室から流れるピアノの音だけが響いていた。

「生きてる…よね、」

俺がそう言えば政宗の一つだけの眼球がゆっくり俺の姿を捕らえた。責めも、憎しみも無いその瞳は何より俺を責め立てた。

「取り敢えず、」

口元を硬いトイレットペーパーで拭いてから保健室に連れていくべきかと政宗の体を起こすため肩に腕を回した。その瞬間、まるで断末魔のような悲鳴がピアノの音を掻き消した。

「政宗、落ち着いて!」

「ああああああああああ」

俺の腕を振り払うように政宗が暴れた所為で吐寫物が飛び散る。しかしそれを気にする余裕もなく俺は上半身身を起こした政宗をぎゅ、と抱きしめて政宗の叫び声に消されないくらいの大きさで話した。

「政宗、大丈夫だ、何もしないから。」

「ああ、やめ、はな、せっ」

「保健室に行こう。平気だから、落ち着いて、」

「は、あ…はあ」

落ち着いたのか、疲れきったのか政宗の叫び声が荒い息に変わっていくのを確かめると俺は抱きしめた背中を優しく撫でた。

「政宗、俺のこと、わかる…?」

「……さ、すけ…?」

名前を呼ばれたことにほっとした。腕の力を緩めて政宗の顔を見れば、不思議そうな目で俺を見ていた。

「なん、で、いるんだ?」

「わかんない。なんか…政宗に、会わなくちゃって思ったんだ。」

俺の馬鹿げた理由に政宗は涙を流した。佐助に嫌われたのかと思った。もう佐助には会えないと思った。会いに来てくれて、嬉しいのだと笑った。その言葉に俺はどうしようもない哀しみを覚えた。

「政宗さ、何言ってんの…俺は」

あのとき俺の勝手で君を避けたのに。
続けようとした言葉は政宗によって遮られた。

「佐助、なぁ、俺のことな、嫌いじゃないならな?好き?すきか?」

唐突に政宗の雰囲気が変わった。先ほどまでの責めも憎しみの無い瞳には何かを渇望している色が滲んでいた。

「なに、どうしたの…」

「俺、佐助のこと、好きだ。佐助優しくしてくれたし、い、痛いこと、しないし、酷いこと、言わないだろ?」

俺はそのとき一連の出来事に動揺していたあまり、先ほどの俺たちの遣り取りを聞きつけた美術の教師が来ていることに気付かなかった。

「  さんみたいに、俺のこところそうとしないだろ」



















薄いカーテンを開ければ、政宗が笑った。

「佐助、今日は遅かったな。」

「ごめん。ちょっと忙しくて。でも朝までいられるから。」

政宗は今、片倉さんという人に面倒を見てもらっているらしかった。片倉さんは一見すごく怖いけど(いや、俺には怖いけど)政宗にはいつだって綺麗な言葉で話しかける優しい人だ。

あの日美術の教師によって発見された俺は生活指導室へ、政宗は保健室へと連れて行かれそうになったんだけど、政宗が泣いて喚いて吐くわ倒れるわであのトイレは一時地獄のようだった。結局政宗はそのまま病院に運ばれて俺はたくさんの先生に囲まれて話を聞かれた。

「俺には、よく分かりません。俺がここについたら伊達君は、あんな状態でした。伊達君は……母親に殺されると言ってました。」

俺の証言により学校が動いた。家庭のことなので何があったのか俺には教えてもらえなかったが幼少期患った病気が原因だということを片倉さんに聞いた。

母親への恐怖と学校での虐めの狭間で政宗はどんな思いをしていたのだろうかと俺はその後B組の虐め主犯達の顎を殴りながら考えていた。そしてたどり着く答えは、苦しんでいた政宗の声を無視し続けたのは他ならぬ自分なのだということだった。

「佐助、俺がな、外でれるようになっても、こうして手、繋いでくれるか?」

政宗が細い指を絡めて俺に訊ねた。ひんやりとしたその手に力をこめて俺は笑った。

「うん。絶対離さないから。」

これが罪滅ぼしのつもりなのか、単なる同情なのか最早俺には分からなかった。
「佐助、俺のこと、すきか?」

「うん。好きだよ。」

それでも、こう答えれば政宗が笑うから。それが俺にはとてつもない幸せのように思えて、安心しきって眠りについた政宗の額にキスをした。


-end-




→さいごに

ゆうき様、この度は企画ご参加、そしてお優しいお言葉をありがとうございました!ものすごく好きな設定をせっかくいただいたのに母親についてはほとんど触れることができずすみません。もっと筆頭の描写も書けよ!というご意見ありましたら本当に遠慮なく仰ってください!直します!
さらに長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。これに懲りることなくまた遊びに来ていただけたら嬉しいです。

この度は本当にありがとうございました(^^)

こつぶ
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