*虐め描写有りですのでご注意下さい。
「ごめん、今日は一緒に帰れない。」
初めて政宗との下校を断ったとき、政宗はひどくショックを受けた様に片方しかない目を大きく見開いて俺を見ていた。
それから、そっか、とだけ言ってじゃぁまた、と背を向けた。その縋るような目に、罪悪感はあった。しかし俺はその罪悪感に気付かないふりをした。
ばいばいここはよるのそこ
政宗は人付き合いが極端に苦手らしかった。それは幼少期に患った病だとかその所為でなくした右目だとか外国滞在経験だとかの理由らしかったが同級生からすれば単なる暗い奴でしかなく中学時代は結局俺しか友達が出来なかった。そしてそれは高校になっても何ら変わらなかった。
俺は、政宗が何故だか俺には懐いてくれるのが嬉しかったしたまに見せる笑顔が好きだったから、高校に入ってからも政宗といることに何の不満もなかった。
そんな日常が崩れたのは名前もあやふやなクラスメイトの一言だった。
「な、お前とB組の伊達ってデキてんの?」
気持ち悪いと思った。変な汗が流れた。
俺と政宗は周りから見ればそんな風に見えるのかと、驚愕した。学校生活を送る上で変な刺激など求めていなかった俺は、あれほど一緒にいた政宗をいとも簡単に切り捨てたのだった。
一度断ってしまえば後はどうとでもなるものらしい。政宗はいつだって何か言いたそうに目を伏せたけど俺は気付かないふりをして政宗を避けた。
(退屈…)
毎日のようにゲーセンへ行き、愛想笑いで繋がるクラスメイトと遊ぶ。ゲーセンへ行くときはゲームに熱中してればいいだけなのでまだましだったけどファストフードをかじりながら何時間もくだらない話で時間を潰すのはあまりいただけなかった。
「そういえばあれだな、あの眼帯の奴、最近一緒に帰ろうって来なくなったな。」
そんないただけない放課後に避けたい話題が振られる。興味無さ気にそうだね、とだけ答えて冷めたフライドポテトに手をつける。不味いなぁと思いながら、確かに政宗最近見てないな、と今更のように気付く。
「そうだねってお前冷たい奴だなー」
「そう?クラスも違うし普通じゃない?向こうだってさすがに友達できたでしょ。」
ずずず、と残り少なくなったジンジャーエールを飲み干し顔を上げると俺以外の3人が馬鹿みたいな顔して俺を見ていた。その意外な反応に違和感を感じる。
「なに、その顔、」
「いやぁ、お前ほんと冷たいっつーか」
「まぁ面白いけどさ。」
「はぁ?」
話が掴めなくて眉間に皺が寄る。俺が全くわかっていないのをようやく理解した一人が半笑いで言った。
「眼帯の子、虐められてるみたいじゃん」
俺の彼女がB組なんだけど、という話の流れは一切耳に入ってこなかったが、どうやら政宗がクラスで虐めにあっているのは確からしい。酷いときは全身びしょ濡れで席に座っているのだと聞いた。
「そんなに酷けりゃ来なきゃいいのにな。」
「確かに。」
嗤う三人の声がどこか遠くで聞こえるようだった。俺はドラマやマンガの様にその場を飛び出すことなく、ただただ黙って店を出るまで空の紙コップを握っていた。
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