*自傷表現有りですのでご注意下さい。
「先生!政宗は?」
「おやおや君、ここは保健室ですよ。静かになさい。」
保険医の明智が言うのも無視して俺はベッドのカーテンを開ける。明智が後ろで女の子が寝ていたらどうするんですか、と笑ったけどこの保健室で休む者がほとんどいないことはよく知られていることだ。
勢いよくカーテンを開ければ白いシーツに見慣れた顔。顔色は悪く、貧血で倒れたというのは本当らしかった。
「政宗、平気?」
体育の最中に倒れただなんて女子みたいだなぁとかわいく思ったけどそんなこと言えば、たとえ政宗が弱っていようとも頬に痛みが走りそうなので黙っておく。
「ん…平気だ。」
起き上がろうとした政宗は、起きるのが辛いのか眉間に皺を寄せている。
「無理しないで。制服持ってきたから着替えさせてあげるよ。」
ジャージ姿のままじゃベッドも汚れるだろうと俺は政宗の制服を取り出す。すると政宗が目を見開いてベッドの端に寄った。
「No thank you.いい、佐助、自分で出来る。」
「何照れてるの。俺達付き合ってるんだよ。まぁまだ3日目だけど。」
これからもっと恥ずかしい姿だって見るんだから、と笑っても政宗は自分を守るように肩を抱き、頑なに首を振る。そこで俺はふと政宗が震えているのに気が付いた。
「政宗、どうしたの?」
「なんでも、」
「うそ。震えてる。」
小さく震える政宗の手に手を重ねれば、不安げな瞳と視線がぶつかった。それを脅かさない様に出来るだけ優しく話しかける。
「政宗お願い。怖がらないで?」
「だって、佐助…俺のこと嫌いになるっ」
ぽたぽたと頬を涙が濡らす。それを優しく拭うと開けっ放しにしていたカーテンを閉めて薄い唇にキスをした。
「嫌いになんてなるわけない。」
だから隠さないで。そう言うと政宗はちいさくこくんと頷きゆっくりジャージのファスナーを下げていく。
(キスマークとかだったら…嫌いにはならないけど怒っちゃうかも。)
そんなことを考えて少し胸が波打つのを情けなく思いながら政宗の手元を見つめる。白い手の甲は長年長袖を着ていた証みたいなものかと俺は自分の健康的な肌の色と比べた。
ぱさりとジャージがベッドに落ちる音で俺は自分の手から政宗へと目を向ける。そこで自分のさっきまでの嫉妬染みた考えを本当に情けなく思いながら、そしてそれ以上に哀しいとか辛いだけでは形容し難い気持ちになった。
政宗の左腕には赤い筋が幾重にも重なっていた。
「まさ」
「さ、け…やんなった?」
呆然と見ていた腕から視線を上げれば不安そうに俺を見ながらまたぽたぽた涙を流す政宗の姿。俺は何か言いたくて、でも何も言葉が出なくて、ただ力任せに政宗を抱きしめた。
「佐助、いてぇ」
「ごめん。ごめん。でも、ちょっとこのままでいさせて。」
おずおずと背中に回った腕をうれしく思いながらひたすら言葉を探す。
ごめん?
ありがとう?
辛かったね?
もうやめよう?
どれもこれも俺の気持ちを表すには足りない言葉だった。
「こうやって…抱きしめてるだけで俺の気持ち、伝わればいいのに。」
結局出てきたのはそんな言葉だった。どこの携帯小説の台詞だよと思ったけど、これより他に言い表すことができなかった。だから足りない言葉の代わりに政宗の背中をぽんぽんとリズムよく叩きながら泣き止むのを待つ。チャイムが鳴ったことも、ここが保健室だということも最早どうでも良かった。
「佐助、悪い。」
暫くしてようやく泣き止んだ政宗がぽつりと鼻声で言った。俺は抱きしめていた腕を緩め、出来るだけいつも通りに笑ってみせた。
「なんで政宗が謝るの。」
すると再び政宗の左目に涙の膜が張るので俺は慌てて頭を撫でる。それでもやっぱり泣き出した政宗を再び抱きしめてやる。
「もー政宗は泣き虫なんだから。」
「だって、佐助が、やさし、から」
「俺の愛に感動しちゃった?」
「ばかやろう。」
暫く二人で抱き合って、見つめ合って、キスをして、笑った。付き合って三日、まだまだ問題は山積みらしい。政宗がなんでこんなことをするのか理由だって分からない。
「ねぇ政宗、」
「ん?」
「それでも俺、政宗を離す気ないから。俺の愛でぐるぐる巻きにして、俺以外見れないようにするから。だから、」
覚悟しといてね、とこれまた携帯小説みたいなことを言えば、政宗の左目にはまたもや涙が浮かんだ。
→おわりに
リクエスト下さったらって様ありがとうございました。あんだけ暗い話書いてて自傷行為って無かった気がするのでどんな表現にしようかな!と考えてたらあんなしょぼんな感じになってしまいました。ちょっとこれ違う…て思われましたら本当にお気になさらず仰って下さい!
勝手にらぶらぶな話にしてしまいましたがお気に召したら幸いです。
今回は企画参加にリクエスト時のお優しいお言葉本当にありがとうございました!お暇なときにでもまたいらして下さい!こつぶ