バニラシロップを一滴だけ | ナノ
*学パロ



「だからお前のノロケ話はもういい!」

「のろけてねぇよ。ケンカしたって言ってんだろ!」

かすがと政宗が5分程遅れて教室に入ると既におしゃべり会は始まっていた様で、二人の声に気付いた鶴姫がニュースです!と声を上げた。

「孫市姉さまがモデルをされるそうなんです!」

席に着いた早々そんな一言を聞かされた二人がどういうことかと話を聞いてみると服飾の専門学校へ通う友人からショーのモデルを頼まれたそうだ。

「何度も断ったんだが、長身というのが気に入られてしまった。」

疲れたような表情でビターチョコを口に入れる孫市に、購買で購入してきた甘いカフェラテを飲みながら不思議そうに政宗が訊ねる。

「なんだよ、良い機会じゃねぇか。お前顔も整ってんだし。」

鶴姫が横で、てゆうか政宗先輩また佐助先輩とケンカしたんですか!というのをさらっと無視すれば孫市はずい、と机の下に隠しておいた紙袋をお菓子や雑誌が散らばった机の上に置いた。

「これはサンプルらしいのだが…」

机に置かれた紙袋をかすがが開けると、かすがは少し目を見開いたかと思えば眉間に皺を寄せた。

「確かにこれは孫市らしくないな。」

そう言ってかすがが取り出した服はどれも孫市の印象とは違うパステルカラーや白を基調とした可愛らしいデザインの服だった。

「…孫市ちゃんはいつもジーンズだものね。」

市の控え目な発言はしかし誰もがそう思っていた一言だった。孫市は黒を基調とした服を着ていることが多いし、制服に至っては学校指定のリボンは付けていないしスカートは足首まで長さがあり可憐とは程遠い装いだ。

「こんなの只の羞恥プレイだ。私が一体何をした。」

いつもは冷静な孫市が嘆くのを見て四人は大丈夫意外と似合うかも、と微妙な励ましを送る。しかし孫市は私は男顔だし似合うわけないだろう、の一点張りだ。そこで、天使のような顔をした小悪魔が慕っている大好きな先輩をどうにか励まそうと、滅茶苦茶な提案をやってのけた。

「孫市姉さまが着る前に政宗先輩が着てみればいいんですよ!二人は身長も一緒くらいだし、男の政宗先輩に合えば孫市姉様にだって似合います!」

どこをどうやったらそんな思考回路になるのだと政宗は開いた口が塞がらない。しかし恐らくはこの状況を楽しんでいるかすがは、成る程な、などと言い孫市も自棄になっているのか、それは良い案だなどと言い出した。

「ちょ、待て!お前等俺が着て似合うわけねぇだろ。男だぞ?」

「五月蠅い。お前猿飛に散々かわいいかわいい言われてるだろうが。」

「ばっかそれとこれとは話が別だろ!」

くっつけた5つの机を囲みながら3対1の口論は続く。こういうとき口が有り得ないくらい回る女子はやっぱ怖いな、と政宗が思っていると市の小さな声が聞こえた。

「あの、伊達君、嫌がってると思うの。」

「Yes、市、わかってんじゃねぇか!」

ようやく味方が出来たと喜んだのも束の間、政宗は反論の声すら上げることが出来なかった。

「突然女の子の服着るのにはやっぱり抵抗があると思うの。だから、初めは見慣れた制服から始めれば、きっと、大丈夫。」

どうかんがえてもおかしな鶴姫の理論はさらにおかしな市の一言で呆気なく通ってしまったのだった。


















家庭科室に移動して、かすがのスカートと鶴姫専用のピンクのリボン(学校指定は臙脂色)と市のタイツの替えを渡される。

「なんでかすがのスカートなんだ。孫市のを寄越せ。」

「馬鹿か貴様。孫市にあのスカートが似合うのは分かってるんだ。知りたいのは膝上丈にピンクのリボンでも合うかということだろう?」

分かったらさっさと着替えてこい!と準備室に詰め込まれる。政宗は溜め息を吐きながらかすがのスカートを広げる。

「てゆうか普通脱いだばっかの服、男子に貸すか?」

もしかして自分はあいつらに男と認識されてないんじゃないかと思いながらスラックスを脱ぐ。スカートのウェスト部分を最大にしてから意を決して足を通す。

「う…very short…」

かすがのスカートは元々短かったが、政宗の方が身長が高い為、より短くなってしまう。下着が見えそうなのが妙に恥ずかしくスカートの裾を引っ張って出来るだけスカートを下げた。

「次はこれか…」

タイツって男も履けるのか、とぶつくさ言いながらも佐助もレギンスとか履いてたっけ、と勇気付けられ黒いタイツを履く。正直に言えばものすごく不快な履き心地であったが、下着が見えそうなのよりはマシかと諦めた。

「せーんぱーい!終わりましたかー?開けますよー?」

鶴姫の声に驚きながらリボンを付けるのも忘れて扉を開けられる前に自分で開け、顔だけ出す。

「何してる。早く出て来い。」

家庭科室の丸椅子に腰掛けながら孫市が言えばshit!という悪態と共に意を決した政宗が姿を現した。

「わー!予想以上に似合ってます!」

「…鶴姫テメェ嘘吐くな。」

政宗の周りをくるくる回る鶴姫を捕まえる気にもならず、兎に角早く脱がせてもらおうともういいか、と孫市に訊ねる。
孫市は目を細めて首を振った。

「待て。お前リボンしてないじゃないか。」

「それに伊達、お前スカートのウェスト最大にしてるだろう?私のスカートはお前のスラックスと違って腰下で履くんじゃない。ちゃんとウェストに合わせろ。」

そう言うと二人は椅子から立ち上がり政宗の仕上げに取りかかる。孫市はピンクのリボンを、かすがはカーディガンとシャツをめくり上げてウェストを締めようとする。

「Stop!!り、リボンなら自分でやるから離せっ!かすがも止めろ、俺には今で充分短いんだよ!」

「五月蠅い。男ならつべこべ言うな!孫市、リボン付けたら加勢してくれ。」

端から見れば女子二人に体を弄られている様にしか見えず、男としては大変プライドが傷つく状態だった訳だが政宗本人はそれどころではない。

「よし、これでいい。孫市、下がって見てみろ。」

「分かった。それにしても伊達。お前の腰の細さなんだか腹が立つな。」

「勝手に腹立てんな!」

先ほどより短くなったスカートはすうすうと足を冷やし、政宗は落ち着き無く足をもじもじとさせる。4人の視線が恥ずかしくて俯いた瞬間、がらりと扉を開ける音がした。

「ひっ、」

反射的に逃げようと、顔を上げる。家庭科室なんて滅多に人が利用しないくせにこんなときに限ってなんでだと自分の不運を呪った政宗の目には先ほどの鶴姫と市のわけのわからない理論が力ずくで通されてしまったときと同様の驚きが浮かんでいた。

「さ、佐助…?なんでここに…」

「だ、旦那がお団子食べたいって言うから…」

佐助の手には確かに団子粉が握られていたが、政宗にとってはそれがどんな粉であろうと関係なく、優先事項はこの場から逃げることである。しかし腕は孫市とかすがにがっちり捕まれており動くことが出来ない。

「さ、伊達ここからが本番だ。」

孫市がそう言うと傍観していた市がひらりとAラインのワンピースを取り出した。政宗が佐助を横目で見ると、普段は飄々としている佐助には珍しく呆然とした表情で政宗とワンピースを見ていた。

(最悪だっ!変態だと思われた…)

そう思えば思うほど政宗の顔は赤く、目元は涙ぐんでくる。それがまた恥ずかしくて政宗が俯いた瞬間、ぐい、と強い力で腰を引かれるのがわかった。

「政宗…」

「さ、すけ…」

「ちょうかわいい…」

そのままぎゅうぎゅうと抱きしめかわいいかわいいと連呼する佐助に政宗の腕を掴んでいた二人も顔を引き攣らせる。
その一瞬の隙をついて佐助が政宗の足を掬い抱っこすると、政宗が暴れるのも構わずにっこり笑った。

「こんなかわいい政宗見れてみんなには感謝だけど、俺様以外には見せたくないんだよね。てことでばいばい!」

団子粉だけを残して去ってしまった佐助と政宗の背中を見送って鶴姫がぽつりと呟いた。

「リボン…持ってかれちゃいました。」

「スカートもだ…」

「てゆうかあいつらケンカ中なんじゃなかったのか?」

顔を見合わせた3人は教室に戻ると市が微笑む中残りのお菓子を平らげた。










*あとがき

素敵なリクエストお優しいお言葉をありがとうございました!とても楽しく書けました!しかし楽しみすぎてガールズトーク少ないわ佐政で終わるわと好き勝手してしまいました…。もし気に食わなければ本当に遠慮なく仰って下さい!

これからもお暇なときにでも遊びにきてやって下さい!ありがとうございました!

こつぶ



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