「では、今度こそ名前を。」 ふわりと笑って真田が再び名前を聞いてきた。その笑顔、なんかずりぃ。 「伊達…政宗…」 「政宗殿、か。」 なんとなくお互い照れてしまい、真田がそれを隠すように、放送しますね、と言ったところで懐かしい声が聞こえた。 「政宗じゃないか!」 「家康…?」 しかし振り返った先には体格の良い(ついでに顔も良い)男が一人。確かに家康の声がしたと思ったんだけど。 「政宗、何故無視をするんだ。というか、何故真田といるんだ?」 馴れ馴れしく俺の名前を呼ぶ男をじとりと見ていると、横にいた真田が声を上げた。 「徳川殿、政宗殿とお知り合いですか?」 真田の知り合いってことはこいつも祭りの役員なのか?……今徳川って言ったか? 「おい、もしかして、」 「ん?」 「お前、家康か…?」 「なんだ政宗、ワシが分からなかったのか?」 目の前の男が家康だと判明した瞬間、俺の中のあのタヌキみたいな家康が音を立てて崩れていく。俺はずいっと家康の目の前に立った。 「どうした?」 「お前偽物だろ…」 「政宗殿?何を…」 「俺の知ってる家康は!ちっこくて、タヌキみたいで!こんな格好良くねぇんだ!」 「はは、政宗、ワシだってお前に格好良いだなんて言われたら照れてしまうぞ。」 余裕の笑みも、俺より太い腕も、俺より高い背も全部腹が立つのに、この顔を前にしては何も出来ない。 「うぅ、」 「政宗は相変わらず美人だ」 「うるせぇ!」 ぽんぽんと頭を撫でられる。そんなことしていいのは小十郎だけだと叫んでやりたい。 「あの、」 そうこうしていると、真田が困ったように声をかけてきた。 「政宗殿が人とはぐれてしまったらしいので、放送をと思っていたのですが。」 「あぁ、元親とはぐれたのか?ならここにいればそのうち来るだろうから待っておくか。」 家康は、あいつは目立つからすぐに分かるだろうと言い、放送席にあったパイプ椅子を俺に勧め、真田の方を向いた。 「真田はまだ提灯の取り付けが終わってないんだろう?」 「あ、そうであった。」 「ワシは元々政宗と回るつもりだったし、用も済んだ。政宗と一緒にいるから真田は仕事に戻ってくれ。」 まるで俺が勝手に動き回る餓鬼みたいな言い方をするのは気に食わないが、いつの間にか成長してた家康は素直に男前だと思う。顔も、性格も。 「そ、うですな。えっと…」 手に持った提灯の袋と俺を交互に見比べながら真田が言い澱む。 「ま、政宗殿」 「ん?」 「また、会えたら…今度はゆっくりお話でもしてくださるだろうか?」 真田の顔はなんだか真っ赤で、俺もさっきこんなだったのかと思えば少し恥ずかしい。 「話…くらい、別に。あんたには助けてもらったし、」 宇宙人という馬鹿げたあだ名を否定してくれたし、というのは黙っておくけど。 「ちゃんと俺のこと覚えとけよ!真田幸村!」 「…!は、はいっ!」 犬だったらしっぽを左右に大きく振っているだろう笑顔で真田は去っていく。 「んー政宗は小悪魔だな、」 「は?」 家康の一言はよく聞き取れなかった。 |