恋の予感 | ナノ

「捕まえたぜ!」

ぎゅっと抱き締めればふかふかの体。ようやく猫を捕まえた俺は自分の頭から面を外し、当初の目的通り面をつけてやった。

「バサライダーのmascotcharacterになれそうだぜ!」

面はさすがに顔につけてやることはかなわなかったので胴体につけてやるとなんともイカした猫になった。せっかくだから小十郎に見せてやろうと写メを撮る為猫を離したら一目散にどっかに行ってしまった。

「あ、」

別に猫に面をくれてやったのが悔しいわけじゃないが、写メくらい撮らせてくれてもいいじゃねぇか。少し虚しくなったじゃねぇか!

「しゃぁねぇ、元親、」

くるりと振り向けば、そこにあるのは大きな木。祭りの音もどこか遠くから聞こえる。

「元親?」





「真田!裏の提灯頼めるか?」
「うむ、任されよ」

祭りが好きだ。何が好きかと聞かれれば明確な答えは用意できないが、俺がこの町に引っ越してきた日も丁度祭りだったから、あの胸の高鳴りを思い出すのかもしれん。

「いかんいかん、早く終わらせねば」

少し回想に浸ってしまったが、俺には提灯を神社裏の木々に付けるという役割があるのだ。袋を開ければ町内会に所属している店や習い事教室の提灯が入っている。自分の道場の物もこの祭り会場のどこかにあると考えればやはり嬉しい。
脚立を使い、順調に提灯をつけていると、少し日も落ちてきた。神社までの道のりの提灯は前日までに付けていたのだが、ほとんど人が来ないであろう神社裏は後回しにされ、実のところ忘れられていたのだ。まだ祭り本番の時間ではないし、神社裏までわざわざ来る人もいないとは思うが出来るだけ早く終わらせた方が良いだろうと思った瞬間、がさっという音がした。

「誰かおられるのか?」

さすがに幽霊の類いに怯える歳ではないが、提灯の入った袋は地面に置いたままなので踏まれては困ると思い、声をかける。しかし返事はないので聞き間違いかと思ったがもしかするとはしゃぎすぎた子供が迷ってしまったのかもしれんと脚立から降りる。

「誰か、」

音のした方を除き込む。

「ちか?」

そこには迷い込んだ子供ではなく、自分と同い年くらいの青年が不安そうに立っていた。

「あ、の、迷われたのですか?」
「No!連れが迷子なんだ!呼んでも出てこねぇ!」

そういうわりにはどこか焦っているような表情の青年に俺は少し可笑しくなった。しかしここで笑ってしまえば相手を傷つけてしまいそうだったので俺は極力優しく言った。

「では相手の御仁もお探しでしょう。ここ一帯は電波も通じにくいですし、放送で呼びましょう。」
「放送?」
「俺は祭りの実行委員なので。」

笑いかければ相手の表情も和らぐ。もしかすると観光か何かでたまたま来たところ迷ったのかもしれない。そう考えればさぞ不安であっただろうと胸が痛む。

「もう大丈夫ですから。さぁ、」

普段子供を相手にしている為に自然と出てしまった手に失敗したと思う。しかし差し出した手を急に下げるのも間違えたことは丸分かりなので、然り気無く、ゆっくりと手を下げようと些か男らしくないことを考えていると、きゅ、と手に生暖かいものが触れた。

「え、あ」
「あんたにまで迷子になられたら困るからな!」

呆れたようにやれやれと言いながら俺の後ろをついてくる彼は少しも間違っていない顔をしているが、どこからどう見ても彼は迷子だ。しかし、やはりそれは口に出さずにおく。

(なんというか…かわいらしい…)

そこまで思って我に返る。男が男にかわいいだなんて自分は一体何を。頬に平手打ちをしたかったが生憎利き手は謎の青年に繋がっている。
せめてこの手の熱が相手に伝わらないようにと祈りながら、俺は先を急いだ。

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テーマ「人外ファンタジー」
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