「朝食が済みましたらどうなさいますか?」 食器を重ねながら訊ねれば、ううん、と悩みだす。せっかくの誕生日なのだ。多少の我儘は聞いて差し上げたいし、欲しいものは何でも買って差し上げたい。予算の上限は無しだな、という結論に至ったところで政宗様が顔を上げた。 「よし、決めた!」 「はい、なんなりと」 「小十郎と散歩がしてぇ」 てっきりどこかのショッピングモールにでも赴き、服やら靴をたんまり買うことになるだろうと思っていた俺は目をぱちくりさせる。 「散歩で…よろしいのですか?」 「ああ、散歩がいい!」 「しかし、本日はお誕生日では、」 俺の言葉に次は政宗様が目をぱちくりさせる。恐らく散歩という答えが最も政宗様が望んでいることであるから俺の意外そうな反応の意味がわからないのだろう。そう考えると、目の前の存在がいつにも増して愛しく思えてきて、俺は思わずその形のいい頭を撫でた。 「では、散歩中に寄りたい所などありましたら仰ってください。」 「ああ!」 帰りには、以前政宗様がおいしいと仰ったケーキ屋で、食べきれないような豪華なホールケーキを買って差し上げようと心で決めて俺は後片付けを始めた。 久しぶりに二人で出掛けるな、と笑う政宗様は、昨日うちにやって来たときよりも幾分か元気そうだ。俺は内心政宗様を傷つけた奴への怒りでいっぱいだったが、政宗様が(少なくとも今は)笑っていらっしゃるのだから蒸し返す必要もないだろうと感情を抑えた。 「あ、」 前から歩いて来た男二人が小さく声を上げた。政宗様は気づいていないようだったが、俺は自分の認識の甘さに心で舌打ちをした。 「おいおい、あれって宇宙人じゃね?」 「お〜久々に見る」 宇宙人。それは政宗様の中学時代までのあだ名だ。俺からしてみればいったいどこのあたりが宇宙人なのかさっぱり理解できねぇ(政宗様の美しさが地球人とは思えないっていう意味なら分かるが、あんな奴等に理解できる筈がない)が、恐らく政宗様の突拍子もない言動なんかを指してそう呼ぶんだろう。 「政宗様、」 近付いてくる男達から隠れるように俺の後ろへ下がった政宗様を守るように愚かな男二人を睨み付けていると、やばい、本物だ、と顔を青くして逃げていった。 「政宗様、平気ですか?」 振り向いて訊ねると、今朝見たように目をぱちくりさせている政宗様がいた。 「うん?」 「いえ、今俺の背中に隠れていらしたので、」 「あぁ!日差しが厳しいから、コバンザメごっこ夏versionしてた。」 コバンザメごっことは、と疑問が頭に浮かぶよりも政宗様が嫌な思いをしなかったことに安堵の息を吐く。 「少し休憩しましょうか」 「Yes!!」 相変わらずコバンザメごっこをしてついてくる政宗様が小さくありがとな、と囁いたことを俺は知らない。 |