ひどく、かなしい

「なんでアンタなんだ…」

狡猾な男は、最早いなかった。ただただ、男が男である為の光のような存在は、この世界には存在しなかった。

「どうして旦那はこの世界に生まれなかったと思う?俺と会いたくなかった?俺と同じ世界には生きていたくなかった?」

男の口から垂れ流しにされる質問の答えは政宗にも解りかねることだ。あの戦乱の世で憎しみ合った二人がこんなにも身近に生まれ、そんな二人が生涯を共にしたそれぞれの相手は、この世に生を受けたのかどうかさえ定かではなかった。

「ああ、旦那、俺は旦那がいなくちゃ生きてく意味がないのに、」

佐助の震える声とは裏腹に、その腕に込められる力は強く、政宗は意識が遠退くのがわかった。しかしあとほんの少しというところで力が緩み、暗闇に落ちることなく急激に入ってくる酸素を只そのままに受け入れた。

「ごほっ、はっはあ、」
「なぁ、聞いてんの?なんでアンタが生きてて、旦那がいないのかって、聞いてんだけど。」

息を整えるので精一杯な政宗に佐助は苛ついた視線を向け、この世では失うことなく揃った右目に指を這わした。

「なんでアンタには右目があるのに、俺様に旦那はいないんだ。なんでアンタしかいないんだ!」
「やめ、」

素手で眼球を触られた不快感に手を振り払えば、佐助は物凄い形相で政宗を睨み付け、閉じた目蓋の上から引っ掻いた。

「あう、っ、」

熱した鉄を当てられたような熱さを感じたかと思えば、次第にじんじんとした痛みが広がる。眼球自身に傷はなくとも、皮膚が薄い目蓋には血が滲んでいる。

「嫌い合ってた俺たちが何十億という人間の中から巡り会うなんて、只の呪いじゃん。」

ねぇ、だなんて笑う佐助の目はひどく冷たい。再び首に回された手を払い除ける気にならないのは、目の痛みなのか、先程首を絞められたことにより意識が少しぼんやりしているからなのか。理由はあやふやなまま、政宗はぎゅうぎゅうと締め付けてくる佐助の手を甘受した。

「抵抗してみろよ、」
「ふっ、あ、おれは、」

記憶に残る、戦乱の世。砂埃に血の匂い。馬の駆ける音。火薬の薫り。二人を繋ぐものは、それだけだった。

「…泣いてるの?」

平和なこの世に巡り合ったことは、呪いなんだろうか。この苦しみは、気道が狭まっているからだろうか。

「「アンタなんて嫌いだ」」

重なった声は、それぞれの意図をもって、静かに震えた。






▼さいごに

伊達の片想い始めてかいたかも!と思ったけど、そんな楽しい話にらなかった。佐助は幸村以外たぶんどうでもいいんだろうなって考えが極まった話でした。
お付き合いありがとうございました!

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