臆病者が語る愛

生きてきて二十数年。人を好きになるだとか、愛するだとか。女の子と付き合っては別れを繰り返したけど、そのどれもが恋愛感情を伴っていたかと言われれば、そんなもの無かった。

「都市伝説だと思ってた。」

だから妊娠したと言われたとき、俺は仕事がどうとか認知がどうとかそんなことより、面倒なことになったなぁという思いでいっぱいだった。

「なにが?」
「ゴムに穴開けるの。」

女性からしたら最低だと思うかもしれないが、結婚する気なんてさらさらなかった俺はいつも避妊は怠らなかったし、出来ればピルも飲んで欲しいと言っていた。だからこそセックスだってした。愛なんてなくても、男はセックスできる。

「俺が孕ましたみたいなこと言われたけど、あいつピル飲んでるって嘘吐いた上にゴムに穴あけてるわけよ。それで俺に結婚迫ってきて、堕ろせって言ったら悪者扱いってどうなの?」
「ゴムに穴ってどうすんだ?針とかで刺すのか?」
「ちょっと聞いてる?」

俺の訴えも虚しく、目の前の男は別のところに興味を持ってしまったらしい。まぁ今さらこんな話をしたところで場の空気が重くなるだけだから、別にいいんだけど。

「まぁ穴の開け方はいいとして、お前はそれで女が怖くなって男に走ったわけか?」
「女が怖いのは確かだけど、男に走ったってのは違う。」
「違わねぇだろ。走ってるだろ。俺に。俺のせいとは言わせねぇぞ。」

目の前の男は、初めて会ったときと同じようにラスティ・ネールを飲みながら、少しばかり呆れたような顔で言った。

「いや、あんたのせい。ゲイバーに来たってあんたに会わなけりゃ俺はノンケのままだったよ。」

当時付き合っていた女に、どうにか金を渡し話をつけた頃、俺は女という生き物にほとほと呆れていた。結婚するためだけに子供を生むなんて頭がおかしいと考えていた。自分自身が母親に必要とされなかったこともあったからか、親の責任を果たせないなら子を生むべきでないというのは物心ついたときからの俺の持論だ。

「そんなノンケのお前が、散々女を口説いたその口で、今は男を口説くのか。」
「話聞いてた?俺、アンタ以外を好きになったことないんだってば。」

グラスを取り上げて唇を押し付ける。テーブルが邪魔だ。舌を差し込むと仄かにウィスキーの味がした。

「俺はやだぜ。ノンケだった奴をこっちに引きずり込んだら、そいつの嫁に訴えられたことがある。不倫ってのは相手にも慰謝料請求できる。」
「俺嫁なんていないし、浮気でも不倫でもないよ。」

呆れたような彼の眼差しにさえ、ぞくりとする。もしかして俺は気付かなかっただけで両刀だったのかもしれない。次はテーブルに邪魔されないように彼の腕を掴み、壁の隅でキスをする。

「ホテルとってるんだけど。」
「盛りがついた犬か。…たく、面倒な奴に好かれたもんだぜ。」

そう言った彼の顔は少し赤かった。







▼伊達のノンケに関わらないようになったきっかけは小十郎という裏設定がありました。
佐助も伊達も女に、愛に臆病そうだなーと思った話。
ゴムに穴はダメ、ゼッタイ。
お付き合いくださり、ありがとうございました。

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