政宗が過呼吸で倒れてから、一週間が経とうとしていた。俺は毎日病院に行き、看護師に政宗の様子を聞いてから出勤するようになっていた。あの日俺の知らぬ間に何をしていたのか、勝手に会社を抜け出して上司に説教を喰らわされたらしい旦那は、何か言いたげにしているけど何も言わない。 俺はあれから政宗には、一度も会ってない。 「佐助さん、携帯鳴ってますよ」 「あぁ、悪いね」 溜まっていた仕事もようやく解消されようかという状態まできた。周りからは、やはり佐助さんがいないと、だなんて言われるが、俺は単純に仕事に没頭したかっただけだ。 「はいもしもし、」 『警察の徳川だ。』 ぼんやりしていた思考が一気にはっきりした。先日彼は政宗に会いに来たと言っていたが、俺のいない間にも会いに行ったのだろうか。 『突然すまんな。電話番号は片倉さんから教えてもらった。』 「あ、そうですか」 わざわざ電話なんて何なんだろう。知ってることは、もうとっくに話したのに、と考えていると徳川の旦那の声が弾むように明るくなった。 『犯人が捕まったぞ。』 「え…」 犯人が、捕まった。 剰りに突然のことに俺の思考は動きを止める。携帯を持つ手が震える。目頭が熱い。 『猿飛さんと会った次の日から少しずつ政宗に協力してもらったんだ。片倉さんも…あの人は本当にすごいなぁ。警察並みの情報網だ。』 頭の中がぐちゃぐちゃで、黙りこくる俺とは対照的に次々と話す徳川の旦那。しかし悪い気は少しもしなかった。 「徳川の旦那、」 『なんだ?』 「ありがとう。本当に、」 上擦りそうになる声をどうにか絞り出して伝える。ここは職場だ。泣いたり出きるわけない。聞きたいことがありすぎて何を聞こうかと考えていると徳川の旦那がすまん、と謝った。 『実はまだまだ報告や手続きなんかがあるから詳しい話は明日直接お話したいんだ。』 「あ、はい、そうですよね。すみません。」 『すまんな。では政宗にも早く知らせてやってくれ』 「え?あ、」 ツーツーと相手と繋がっていないことを知らせる無機質な音に元々馬鹿みたいに音を立てていた心臓がさらに音を立てる。 「政宗…に、」 誰よりもこのニュースを心待ちにしていた筈の人物の顔が浮かぶ。白くて静かな病室で、暗い顔をしていた政宗。俺を怯えたような目で見ていた、政宗。 「佐助!」 背後から聞こえた聞き慣れた声に振り返ると、先日の上司からの説教により頬を赤く腫らした真田の旦那が立っていた。 「旦那…」 「行け!何を躊躇っている!」 「いやでも、」 「そのように軟弱な精神に育てた覚えはないぞっ」 「旦那に育てられた覚えなんてこれっぽっちもないんだけど。」 「む、そうか」 ううむと難しい顔をしている旦那に、張りつめていた緊張が解ける。ついでに言うと、他の社員は旦那の大声に目を丸くしている。 「旦那、」 「なんだ佐助!」 旦那に視線がいっていた社員も、旦那も俺を見る。しんとした室内で、俺は大きく息を吸った。 「政宗は俺の恋人だあああ」 旦那にも負けないような雄叫びを上げて俺はダッシュで会社を出る。ぽかんとする社員をよそに、うんうんと納得したように頷いている旦那を横目に見ながら。 |