指で紡ぐ愛情 | ナノ
冷たい夜に



深夜の病室は静かだった。医療器具を運ぶ音もしない。廊下を歩く音もしない。何より、愛しい人も声を発さないからだ。

警察から連絡があったのは、政宗から、今から帰ると電話が入ってから一時間程経った頃で、丁度俺が政宗の帰宅の遅さに疑問を抱いて電話をかけようとしたところだった。

『ご友人が事件に遭われました』

詳細を聞く余裕もなく家を飛び出した。タクシーをつかまえ病院を伝える。病院に着く頃には時刻は既に午前零時をまわっていた。

警察の話によると政宗は女と間違われて襲われたらしい。不幸中の幸いというのか、途中政宗が男であることに犯人が気づいた為事には至らなかったようだ。胸を撫で下ろしたのも束の間、警察と入れ替わりに話を始めた医者の言葉に俺はどうしようもなく動揺した。

「伊達さんは襲われた際、恐らく声を抑える為だと思いますが…喉を潰されています。さらに過度のストレスから突発性難聴になっています。」

簡単に言うなら、会話が出来なくなってしまった。筆談は可能。でも政宗のあの声を聞くことは出来ないし、俺の声を聞かせることも出来ない。

「治らないんですか、」
「喉の方は手術によれば或いは…難聴の方は伊達さんの精神的ショックが回復すれば元に戻るでしょう。」

掠れる声で縋りつくように述べた問いかけは曖昧な答えで返される。そのまま入院に関することや今後の治療なんかを、俺は古い丸椅子に腰をかけたまま聞いていた。






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