「どうも、お久しぶりです。」 「悪いな、忙しいところ。」 チカちゃんとの食事を切り上げ、空港近くの駅までタクシーで向かうと、長時間のフライトだったにも関わらず崩れることなくスーツを着こなした片倉さんが立っていた。 「この時間じゃ病院も開いてねぇんだろ?わざわざ来なくてよかったんだぜ。」 「あ、いえ、お話しとかなきゃいけないこともありますから。」 俺の言葉に片倉さんの顔は暗くなる。会話らしい会話もないまま適当なバーに入り、政宗の容態について話をした。突発性の難聴になっていること。喉が潰されていて上手く声が出ないこと。男を見るとパニックを起こすこと。 「きっと片倉さんならパニックにならないとは思うんですけど。」 ちらっと覗き見れば厳しい顔の片倉さんがいた。見なかったことにしてタバコに手を伸ばすと、いっそう低くなった声が響く。 「犯人は捕まったのか。」 「いえ、」 片倉さんの手が震えるほど、強く握られる。最も怒りをぶつけたい人間が誰なのか、はっきりしないことは、擦り切れた神経をさらに疲弊させる。片倉さんは小さく溜息を吐き顔を上げた。 「見つかってないものは仕方ない。俺も独自で調査を入れる。」 「はい。」 「ともかく、政宗様の容態をこの目で見ないことには動けねぇ。」 がたんと立ち上がりカウンターにお札を置いた片倉さんに俺は慌てて立ち上がる。 「あの、明日病院前でお待ちしてます。」 「あぁ。悪かったな、遅くまで。」 いつもの広い背中が、どこか寂しそうに見えた。 |