旦那たちと会ったことで何か変化が見られるかと思ったけれど、あれからも政宗は思い出したように泣いたり、そうかと思えば俺が用意しておいたメモ帳をビリビリに破いていたり、情緒不安定な状態が続いた。 「なんか自信なくしちゃう。」 疲れきった俺を見かねてチカちゃんが食事に誘ってくれたのに、お酒を飲めば出てくるのはマイナス思考なことばかり。いつもなら楽しい食事の場も、事が事だけに心の底から楽しめないでいた。 「お前が自信なくしてどうするんだよ。」 「だってさー」 政宗を嫌いになるわけなんてない。それだけは自信を持って言えることだ。でも、政宗がどう思うかなんてわからない。今回の事件のせいですっかり塞ぎ込んでしまって、俺のことなんて分からなくなってしまったら。それはもう愛してるとは言えないんじゃないか。 そうやって真剣に考えていると、ばん、とグラスが目の前に置かれた。チカちゃんが頼んでた筈のお酒。 「ぐちぐち考えたって仕方ねぇだろ。あいつが大変なときこそお前はいつも通り余裕もってやらねぇと駄目だろ。」 だからたまには息抜きしろよ、とお酒を勧められる。男臭いチカちゃんらしい励まし方だと笑ってありがとうと礼を言った。 「つーかお前がいつも通りじゃねぇと幸村も心配そうにしてやがるし。」 「旦那は手ぇかかるからね。」 先ほどまでの暗い雰囲気とは違い、いつも通りとはいかないまでも、肩の力が抜けてきた辺りでふとチカちゃんが思い出したように言った。 「そういや片倉さん来てねぇの?」 片倉さん。 政宗の保護者みたいな人。みたいな、というのは政宗にはちゃんとご両親がいて、それは片倉さんじゃないからだ。片倉さんと政宗の関係は知ってるけどわからない。ややこしいわけじゃない。理解できない、そんな感じだ。 「今海外で仕事らしくてさ。どうにかして帰るって言ってたけど。」 「へー片倉さんのことだからもう来てんのかとばっか思ってたぜ。」 チカちゃんが意外そうに目を丸める。確かに意外なのはわかるけど、そりゃ海外にいてしかも片倉さんは責任ある立場の人だし、じゃあ今すぐ帰りますともいかない。それにまぁ、こう言っちゃなんだけど、片倉さんの存在は俺にとって精神衛生上あまり良くない。 「まぁ時間の問題でしょ。」 「あの人犯人見つけたら真っ先に切りかかりそうだな。」 「はは、」 笑えない冗談に相づちを打つと、携帯がちかちかと光るのが見えた。 「ごめんちょっと、」 ディスプレイを見て、動きが止まる。 「なんだぁ?お前固まってるぞ?」 「チカちゃん、」 「あ?」 「片倉さん帰国したみたい。」 噂をすれば、なんとやら。 俺とチカちゃんの酔いは一気に醒めた。 |