指で紡ぐ愛情 | ナノ
ねえ聞こえないよ



政宗が襲われた次の日は、入院の準備やらに追われ、病室に来れたのは午後八時を過ぎた頃だった。

「遅くなってごめんね。」

そうは言ったものの、政宗に言葉は届かない。聞こえなくなったというのもあるけど、今の政宗にはたとえ耳が聞こえていても、何も響かないと思う。

呆然と一点を見つめる目は虚ろ。ぼんやりとしているのかと思えば突如涙を溢れさせる。俺の存在になど、気づかないみたいに。

「政宗、こっち見てよ。」

白い指に自分の指を絡めて、絞り出すようにそう言った。

「片倉さんに連絡したよ。きっとすぐ犯人も捕まる。」

今朝、片倉さんとはすぐに繋がった。俺は嘘偽り無くありのままに真実を話した。政宗が襲われたこと、ストレスから耳が聞こえなくなったこと、喉が潰れて掠れた音しか出ないこと、俺は何も出来ないこと。
片倉さんは痛いくらいの沈黙の後、わかった、すまねぇな、とだけ言って電話を切った。

「政宗が元気にならないとさ、片倉さんも仕事手につかないと思うよ。」

片倉さんは政宗に異様な愛を注いでいるから、犯人が見つかれば殺してしまうんじゃないかと思う。まぁそんなの、俺も一緒なんだけど。

「お願いだから、俺を人殺しにしないでよ…?」

切実なる願いでさえ、
今の政宗には届かない。



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