「にいちゃん、どこ行くだか?」 「そうだな、夢の国、だ。」 少女の手を引いて政宗は用意していた小型飛行機へと向かうところだった。少女を連れてきたのは長年従えてきた神父が自分の考えに靡かなかったからではない。拘束しておいた飛行機のパイロットに無事に操作させる為であり、最早MWが手に入れば少女がどうなろうとも政宗にはどうでもよかった。 少女を座席に座らせると政宗はコクピットへと移動し、コートのポケットに忍ばせていた黒い塊を操縦席に座るパイロットのこめかみに当てた。 「ひ、ひぃ!」 「気色悪い声出してんじゃねぇよ。余計なことは言わなくていい。俺の指示通りに目的地へ運べばいいんだ。わかったか?」 「しかし、私は」 「操縦出来ないとわ言わせねぇ。あのとき、島中の遺体を運び出したのはお前だと調べはついてんだ。」 そう囁けば男の顔色が変わる。当時は軍人として偉そうにふんぞり返っていたであろう人間が生まれたてのヤギの様にかたかたと震える様を見て政宗は思わず声を上げて笑った。 「はは、いい顔するねぇ。」 「貴様、こんなことをしてただで済むと思うな!私は今でもこの国の重要人だ!しかもあの事件が絡んでいるとなればお前だって無事には…!」 男が次の言葉を発する前に、その口を閉じるかのように政宗の拳が男の頬に入る。 「うぐっ」 「勘違いしてもらっちゃ困るね。あんたが重要人物なことくらい知ってるさ。なんならこれから起こることについてマスコミや政府に連絡したのも俺でね。国はマスコミに報道規制をかけるだろうし、規制がかかれば撮りたくなるのがマスコミだ。あれが明るみに出ないようにこの飛行機ごと爆破させようと政府はするだろうが、愛らしい少女が招待されてる飛行機を爆発させられると思うか?」 政宗は一気に喋ると携帯を取り出し、男に見せつける。そこには今まさに自分達が乗っている飛行機が映っており、画面の隅には『少女が人質に』というテロップまで表示されている。 「これでわかっただろ?あんたに拒否権はないんだよ。」 不敵な笑みを浮かべた瞬間、突如外が騒がしくなった。政宗が窓を覗けば、必死に引き留める警官を押し退けて飛行機に向かって走る男の姿がある。 「元親…」 それは間違いなく、神父である長曾我部元親の姿だった。 「はは、やっぱあんたは最高だ!」 嬉々としてコクピットを出れば、暫くしてがんがんと機体を叩く音が響いた。政宗は扉を開けてやり、飛行機に元親を招き入れた。 「政宗、てめぇ!」 「子供の前だぜ?神父さん。」 元親が視線をずらせば、不思議そうな顔をした少女がふたりの様子を伺っていた。元親は深呼吸をし、政宗の腕を掴み歩き出す。 「神父さま?」 「大丈夫だ、いつき。暫く待ってな。」 そう言って少女の頭を撫で、二人はコクピットへ入った。 prev next |