「久しぶりだな、元親。」 「ここには来るなと言った筈だぜ、政宗。」 元親の言葉に、黒いスーツの男は妖艶に笑ってみせた。 「そりゃぁないぜ。俺は懺悔をしに来たんだ。なぁ神父さん、ここは迷える子羊を救うところだろ?」 「……教会へ入れ。お前ら、兄ちゃんに貰ったプレゼントは仲良く分けるんだぞ。」 子供たちの元気の良い返事を背に二人は教会へ足を踏み入れる。ステンドグラスから漏れる光を受けた男は剰りに美しく、まるで天使のようだと元親は何度も思ったことがある。しかし男の本質など疾うに理解している元親にとってそれはある種の願望のようなものであった。 「人を殺してしまった。」 告悔室に入ると、男は淡々と懺悔を始めた。 「人質だった子供は、殺すつもりはなかったんだぜ?信じてくれよ。逃げだそうとするからよ、つい首を絞めちまった。」 悪びれる様子もなく言う男に元親は頭が痛くなった。思わず吐いた溜息さえも男は鼻で嗤う。 「あんたがそんな死にそうな顔をする必要はないだろ?あんたはただ今まで通りに神父をやっていればいい。」 「だがお前は懺悔に来る。」 「話くらい聞いてくれたっていいだろ?俺とあんたは一蓮托生、そうじゃなかったか?」 「……」 ふふ、と笑うと男は静かに部屋を出る。元親はその姿さえも、やはり美しいと思う。 「明日、俺の家へ来いよ。ようやく、見つけたんだ。」 「な、それはお前、」 ここでは言わないとばかりに、元親の言葉に返事をせずに男は教会を出ていく。元親は重々しい扉が閉まるのをただぼんやりと見ていた。 二人の運命が変わったのはもう何年も前のことだ。元親は所謂不良グループに属していて、ある夏、本州を離れた小さな島に仲間と共にやってきた。理由はなんとも馬鹿げていて警戒心の薄い島民から金目のものを盗むというものだ。しかし島民は質素な生活を貫いており、金目のものは疎か食料さえほとんどない状態だった。 「ちっ、金なんてねぇじゃねぇか。」 「畜生!わざわざこんなとこまで来て手ぶらで帰れるかってんだ!」 不良達が苛立たし気に海に向かって石を投げると丁度その向こうに一隻のクルーザーが見えた。 「はは、ようやく獲物の登場だ。」 元親はその船から降りてきた―当時はまだ少年だった―政宗のかわいらしさを今でもよく覚えている。白い肌にばら色の頬、桜色の唇、つやつやのやわらかい髪。都会の者とも、島の者とも違う中性的な顔立ちに若い元親は釘付けとなっていた。 「へへっおっさん金あんだろ。」 「な、なんだね君たちは!」 仲間がクルーザーの所有者を囲み金を捲き上げる中、下っ端だった元親は岩陰に隠れて怯える政宗を連れてアジトにしていた洞窟に戻らされた。 「そんな怯えるなよ。」 「……」 洞窟に連れてきても政宗は怯える一方で元親はどうしたものかと考え倦ねていた。 「お前にゃ酷いことなんてしねぇよ。」 「ほんと?」 こてんと首を傾げる政宗に元親は目眩を起こしそうだった。それと同時に、子供でしかも男だからと抑えていた欲望がむくりと頭を擡げた。 「なぁ、お前…ほんとにかわいいな、」 どうせ仲間はいないのだと元親は優しく政宗をその胸に閉じこめた。ふわりと香る甘い匂いに、若すぎる男の理性など剰りに脆い。 「悪い。でもお前がかわいすぎるからよ…なぁ、ちっと大人しくしててくれよ?」 「神父さまー電話だべー」 少女の声に元親は肩を揺らした。気がつけば教会の中は真っ暗でいつの間にか夜になっていた。少女が晩ご飯も食べずに、と怒るのを苦笑いでやり過ごしながら元親は施設に戻り電話をとった。 「はい、神父の長曾我部ですが。」 『あ、あの、伊達さんの同僚の者なんですが、』 電話の向こうの焦り具合に元親は眉を寄せる。 「どうなさいました?ゆっくり、落ち着いて下さい。」 『すみません。あの、伊達さんが倒れられて…』 病院名だけ聞き、タクシーに飛び乗ると元親は祈るように胸元のロザリオを握った。 prev next |