小説 | ナノ

耳障りなアラームの音を止め、ぼんやり携帯を眺める。時刻は午前6時。あと10分どころか1時間でも寝ていたいところだけれど、気合いで布団から這い出し大きく伸びをする。薄暗い部屋のカーテンを開ければ輝かしい日光が部屋に差し、それだけでさっきまでの憂鬱な気分が晴れ晴れとする。俺の場合は。

「政宗ー!起きてー!」

艶やかな髪から覗く耳に呼びかければ、んぅ、と不機嫌そうな声が漏れる。そうして少し身を捩って布団に潜ろうとし始める。

「だめだめ、遅刻しちゃうって!」

頭にかかった布団をどけると、いかにも眠たそうな目と視線がぶつかって思わず笑ってしまった。

「うー…わらってんじゃねぇ、よ」
「だってすごいとろんってしてんだもん。」

普段は格好いい政宗が覗かせる子どもみたいにな一面は、この起床時の楽しみでもある。とろんとした目がかわいくてじっと見つめていれば、布団の中からおずおずと腕が出てきた。

「ん?」
「起こして。」

寝起き独特の掠れた声でそんなこと言われれば俺の顔は緩んでしまう。甘えたな政宗こそ正義だ。

「仕方ないなーはい、おっきしてー」

起床直後で温かい手を掴み引っ張ると、引っ張られるままに政宗が起きた。起きたと言っても俯いているし腕もだらんと下がってる。

「政宗、今寝たら怒るよ。」
「うー」
「さ、顔洗お?」

部屋から出ようとすると不意に温かい手に掴まれた。振り返れば、相変わらずとろんとしたままの政宗。

「なに。どしたの?」
「…むこうまでだっこ…」

流石に言った後恥ずかしかったのか、俯いた政宗の耳は真っ赤だ。ちょっともう。かわいいんだから。

「ほんと政宗ってば甘えただ。」
「ねむいだけだ。」
「はいはい、ねー」

同じくらいの体型であることもなんのその。政宗の体を抱きしめて部屋を出る。甘やかしすぎは駄目だ!なんて怖い声が聞こえてきそうだけど、俺たちはこれでいい。

「しあわせだねー政宗!」
「おー!」

俺たちはしあわせ。



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