小説 | ナノ

コクピットに着くと政宗は元親の腕を払いのけ、再び男に銃を向けた。元親は取り乱すことなくそれを見つめ、ゆっくり口を開いた。

「政宗、今すぐいつきを解放しろ。」
「あんた馬鹿か?意味がないだろ。俺が無事にMWを手に入れたらちゃんと解放してやるさ、この老いぼれもな。まぁ解放したところで命の保証はないが、」

淡々と言い放ち、男にフライトの準備を指示する政宗に元親は憎らしさや嫌悪感ではなく、同情にも似た愛を感じていた。滑走路を走り始めた機体は政宗の予想通り、狙撃されることなく離陸を始める。

「なぁ折角だ。話をしようぜ、神父さん。」
「……」
「俺はあんたが好きだよ。初めて会ったときは…そうだな、好きというより怖かったな。だってあのときの俺は純粋な少年だったろ。不良を怖がるのは仕方ないことだ。」
「政宗、」
「それでもあの日、あんたと手を繋いで洞窟を飛び出したとき。俺は安心感でいっぱいだった。あんたの手はあったかくて、優しかったからな。」
「政宗…」
「俺にはもうあの頃の純粋な気持ちなんて思い出せねぇし、思い出したところで何か感じるわけでもねぇが…」

政宗が一瞬自嘲的な笑みを浮かべた。

「出来ることなら、あんたともっと違う形で出会いたかったとは、思うぜ。」
「馬鹿野郎!」

溢れる気持ちを抑えるように元親が怒鳴っても既に政宗はいつもと変わらぬ顔をしていた。

「俺は、お前を…救いたかったんだ。」
「は、痴がましいね。あんたになにが出来るんだ。何も出来ないなら黙って俺の行く道を見とけよ。」

政宗が顎で操縦席を示せば、雲の合間から小さくではあるがかつての惨劇の場が見えた。それに満足したのか、政宗が男のこめかみから銃をほんの僅かに逸らした瞬間だった。

かん、という金属の当たる音と共に銃が床に落ちた。

「元親、てめぇ!!」

目を見開き銃を拾おうとする政宗を元親の腕が捕らえる。そのまま引きずるようにコクピットを抜け、少女のいる客室へ出た。政宗が暴れるのを力で押さえ込み、口を塞ぐ。

「いつき、」
「神父さま!どうして、伊達の兄ちゃん…」
「いつき、俺と兄ちゃんは大事な話があるんだ。あっちの部屋でおじさんと静かにしててくれるか?」
「でも、でもっ」
「教会に帰ろうな。」

元親が悲しそうに笑えば、少女は小さく頷きコクピットへと向かう。政宗がそれを止めようと抵抗するものの体格からも敵うことなく床に押さえつけられた。

「てめぇどういうつもりだ!」
「どうもこうも無ぇ。あのふたりを無事に帰すだけだ。」
「はっ、ふざけんな。じゃぁあんたと俺はどうするんだ?MWの関係者となれば今までのように暮らすのは不可能だぜ。」
「いいんだよ、それで。」

押さえつけられていた体が不意に起こされたかと思えば、政宗の体はきつく、しかし優しく抱きしめられていた。

「な、にを…」
「政宗、いっぱい辛い思いさせて悪かったなぁ。」

振り払おうとすれば、出来たのかもしれない。しかし政宗は只呆然としながら元親の言葉を聞いていた。

「俺聖職者なのによ、誰一人助けらんないどころか一番大切な奴すら救ってやれなくてよ。」
「やめろよ…」
「お前を止めることすら出来ねぇし、」
「やめろって!それじゃぁ、そんな言い方したら、」

「お前は可哀想なのにな。」

ごわんごわんと耳鳴りがするのを他人事のように理解しながら、政宗は呼吸することも忘れて元親の腕から逃れようとした。

「はな、せっ」
「可哀想なのに誰も気付いてくれねぇ。お前自身、自分が可哀想だと認めちゃいねぇ。そして、」

暴れる政宗によって、元親の首から下がっていたロザリオが軽く音を立てて落下した。

「お前が可哀想だと知っていながら何もしなかった俺は、悪魔よりも酷い奴だ。」

濡れた頬にキスをすれば、今度こそ一切の抵抗を止めた政宗を抱きしめ元親はゆっくりと非常用の扉を開けた。ごうごうと響く風音は声をかき消すのに、ふたりには互いの言葉がはっきりと聞こえた。

「元親…」
「ん?」
「愛してる。」
「俺もお前を愛してる。」

どぷんと水飛沫が上がった。

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