企画 | ナノ
アイ ミス ユーにキスを落とす。



「恭弥って寂しくなったりしないのか?」

いつも通りに風紀委員達からの報告書に目を通していれば、黒革のソファに座っていたディーノがぽつりと、でもはっきりと僕に尋ねた。

「別に…寂しくなることなんてあるの?」

「あるだろ!!てゆうか今そのときだろ?」

「…?」

「だーかーらー俺達二週間ぶりに会ったんだぞ?普通もっと抱きしめ合ったりキスしたりするじゃねぇか!!」

「普通じゃないね。そんなことやっている奴がいれば風紀の乱れになるから咬み殺すだけだ。」

そう告げるとディーノははぁ、と溜息を吐き、ぶつぶつ何か言っている。

「俺なんてもう寂しくて切なくて仕事すげぇ早く仕上げてこっち来たのに…明日には帰らなきゃなんねぇのに…」

僕が悪いみたいに言うけど、今回だって別に僕が会いたいから来て、と言ったわけじゃない。というよりそんな感情持ち合わせてない。

「生憎僕はそんなこと思ってないし、頼んでないよ。」

そう言うとディーノがぴくりと反応した。僕の心臓も、何かじわりと毒でも溶け出すような感覚が広がる。

「そうか…悪かったな。」
そう言うとディーノは出ていってしまった。悲しそうな彼の背中に、僕は恐らく後悔しているであろう自分の心に気づかないふりをした。

少し離れてから、後ろを振り向く。

「追いかけてきたり…するわけないか。」


大人げないことをしてしまった。恭弥がああいうタイプだということは重々承知の上で恋人をしているのだ。それでもやはり少しくらい、寂しいという感情も持って欲しいというのも事実だ。

「しかもなー明日からなー」

まぁ言っていなかった俺にも非があるだろうが、明日イタリアに戻ったら、数ヶ月は仕事詰めの生活になってしまう。しかも世界各国を飛び回るから連絡もあまり取れないだろう。だからせめて今日くらい恭弥と愛し合いたかったのに。

車に戻るとロマーリオが目を見開いたのを見て、苦笑いを浮かべる。

「なんだボス、もういいのか?」

「あぁ。ふられちまった。」

「ふられたって…いいのか?これから、」

「ん、恭弥は強いからな。平気だろ。」

「いや、あんたが仕事できねぇと困るから。」

「ははは、それは何とも言えないぜ。」

やはり寂しい気持ちは消えないけど、俺は空港に向かった。










「あー…よっしゃあと一枚!!」

「ご苦労様、ボス!それが終わればあと三分の一だ。」

「げ、まだそんなにかよ。」

今手にしている資料にサインをし、ロマーリオに渡す。残りが三分の一。ここまでくるのに約二ヶ月かかったから更に一ヶ月かかるということだ。

「恭弥に会いてぇなぁ。」

実はもう俺は日本に来ている。会おうと思えば会えるが、先日のこともあり恭弥とは連絡もとってない。俺は仕事でそれどころじゃなかったし(気まずかったというのが実は一番)、寂しいという感情に触れたことがない恭弥から連絡してくることは…まずない。

「俺ばっか会いたがってるよな…」

何となく虚しくなって携帯を開けた瞬間、手の中で携帯が振動した。

「すげー開けた瞬間メール来たぜ。」

メールボックスを見て、自分でも分かるくらい心臓がどくりと鳴った。

「きょ、うやだ…」

心なしか震える指先でボタンを押せば、

from:恭弥
title:(non title)
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「…空メール?」

最後の方に何か打ってあるんじゃないかとスクロールするけど、やはり何もない。どういうことか分からずに、取り合えずどうした?と返信してみる。しかし一向に返事は返ってこない。
不審に思い、電話をかけてみるが、やはり出ない。そこでふと不安がよぎる。

恭弥の身に何かあったのではないか。

俺は急いで部屋を飛び出す。驚いているロマーリオに悪い!!3日以内には帰ってくると叫べば呆れた顔をしつつもまぁ頑張った方だな、なんて言って車を出してくれた。

「それにしても突然どうしたんだよ、ボス。」

「それが、恭弥からメールがきたんだが、内容が書かれてなくてさ。どうした?って聞いたんだけど返事もなくて。電話にも出ねぇし。」

そう言うとロマーリオは、成る程、と納得。恭弥の居場所が分からなかったので取り合えず行き先を並中にし、念のためツナにも聞いてみる。

「どうだ?ボス、」

「駄目だ。ツナにも分からないって。しかも最近学校でも見てないらしい。」

するとロマーリオがハンドルを片手で握り、内胸ポケットから携帯を出してきた。

「ボス、草壁に聞いてみろ。アイツなら何か知ってるかもしれん。」

「あぁ、悪いな。」

恭弥は強いから大丈夫だ。
そう信じているけど不安な気持ちは拭えない。どうか恭弥の身に何事もありませんように、と祈るような気持ちで草壁に電話をかけた。

寂しい?
切ない?
僕はそんな感情知らない。

あぁでも、
無性にあなたの顔が見たいのは、
なんでなんだろう。
















「恭弥」

濁った視界はゆらゆらと明るい色を写すだけで、熱に浮かされた僕の頭はそれが何なのか理解できないでいた。

「恭弥、大丈夫か?」

頬に当たるひんやりとした感覚が気持ち良くて、僕は目を細める。すると生温いものが僕の目元を濡らした。

「恭弥、寂しかったのか?」

だんだんはっきりしだした頭で理解する。目元を濡らす生温いものは、涙。僕は、泣いている。

「でぃーの、」

涙を拭われて視界が開けるといつもの笑顔のあなたがいた。さっき見た夢の中でどうしても、見たかった、あなたの顔。

「驚いたぜ、お前からメールきたとき。空だったし電話しても出ないし。」

だって、なんて言えばいいのかわからなかった。あのときあんな別れ方をしたから、どうしたらいいのかわからなかった。

「風邪、辛かっただろ?今もすげぇ熱あるな。」

こつんとおでこをくっつけられるとまたぽろぽろと涙が出てきた。

「でぃ、の」

「んー?」

「ごめんな、さい、さびしかった、」

あなたに酷いこと言ってしまったって、本当は後悔していたんだ。
寂しいって気持ち、わかったんだ。

草壁によると恭弥は風邪を拗らせて自宅療養中だった。最初こそお世話をしに行くと申し出たそうだが、プライドの高い恭弥は草壁の申し出を頑なに拒んだらしい。


「お前が寂しくないならいいよ。」

涙を拭ってやれば、その指をきゅ、と掴まれる。その指の熱さに恭弥の熱の高さを知り、一人でこの熱に耐えていた恭弥の寂しさを考えると切なくなった。

「恭弥、寂しかったな。でももう平気だからな。ゆっくり風邪治すことだけ考えろ。」

空いている手で頭を撫でてやると、熱でいつものように鋭さのない恭弥の瞳が俺を捕らえた。不謹慎にもその潤んだ瞳が色っぽいな、なんて考えてたら恭弥がごそごそとベッドの端に移動する。もちろん俺の指は掴んだままで。

「恭弥?あんま離れると指痛いんだけど、」


「ここ、」

空いたスペースをぽんぽんと叩き、恭弥が俺を見る。

「え、」

「ここ、きて。」

再びぽんぽんと叩く恭弥は歳より少し幼く見えて、俺の頬も緩んでしまう。

「ん、わかった。ぎゅーってしてやるから、汗いっぱいかいて早く治そうな。」

ベッドは少し窮屈だったが、俺が恭弥の背中に腕を回し、とんとんとリズムを刻んでやれば恭弥の瞼が下がってくる。

「寂しくなったら、言ってくれよ。」

汗ばんだ額にキスをした。
恭弥が早く、元気になりますように。
そして恭弥がたまにはこうして寂しいと思ってくれますように。祈りを込めて。


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あとがきと補足


まずは一万打ありがとうございます!!
DHで幸せな話、とのことでしたがなんだか前半シリアスぽくなってしまいました(-.-;)
私的には後半かなりいちゃこらさせたつもりなんですが皆様はどうだったでしょうか?なんか予想外に暗いよ!!てご意見ありましたらこちらを暗いお話にして書き直します。どうぞ仰って下さい。やんわりと 笑

そして雲雀さんの空メールについて。
謝罪のメールを考えているうちにどうしていいかわからなくなって、力つきただけです。熱で。
電話も寝てしまって気づかなかっただけです 笑

長々と書いてしまいましたがここまでお読みいただき誠にありがとうございました!

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