*注意 現代でちょっとした捏造を含みます。 ぼんやりとした意識の中でもなんとなく感じる。ああ、なんだか、とても、イヤだ。 これはきっと、 「そういうわけで、今日学校行けないや。だから迎えにも行けないのね。旦那と親ちゃんに迎えに行ってあげて、って言っといたからたぶん来てくれると思う。えぇとそれから、」 『佐助、もういい。寝てろ。』 ぶつ、と切れてしまった携帯を寂しく眺める。微睡みの中で感じた予感は的中していて、俺様はどうやら風邪を引いてしまったらしい。イヤな夢を見た気がするから、熱もあるだろう。 ごろんと寝返りを打って今日一日の政宗を考える。彼は俺が迎えに行かなくては学校に行かない。さぼり癖があるのだ(曰く、さぼっているのではなく忘れてた、らしい)。旦那と親ちゃんに迎えに行かせたけど恐らく居留守か、何ならインターホンに応答しておきながら出てこない、という対応を受けるだろう。それからまんまと学校をサボタージュした政宗は部屋で最近お気に入りのバンドをエンドレスで流して、ご飯を食べるのも忘れて、大好きなお母さんと写っている幼少期のアルバムを見るのだ。 ピンポーン そんなことを考えていたらいつの間にか寝ていたらしく、無機質な音で目が覚める。 正直動くのが面倒だから、布団をかけなおし、無視を決め込む。 ピンポーン 二回くらい無視されれば諦めて帰っていくだろう。俺は再度目を瞑る。 さすけー ガバッと布団を払いのけ、浮遊感漂う自分の体を奮い立たせ、玄関へ直行。鍵を開けて、目の前に立っているであろう彼に当たらないようにゆっくりドアを開ける。 「政宗!!どうしたの!!」 「見舞い、きた。」 ちょっと照れた顔の政宗を見て、どうやら俺の熱は上がったようだ。かわいい、かわいい、かわいい!! 「とりあえず入って。寒かったでしょ。」 「あぁ、つーかお前もそんな薄い格好で出てくるな。」 政宗が愛しくて上着羽織るのも忘れてたよーと言おうとして、携帯が光っているのに気付く。新着メールが2通。政宗がここにいることからして、内容は大体理解できた。 「親ちゃんと旦那捲いてきたの?」 「いや?ちゃんと佐助のとこ行くっていってきた。」 二人のメールは政宗に逃げられた!!というもので、まるで猫の保護に駆けつけたのに、その好意も空しくするりと腕から逃げられた善良な市民のコメントの様だった。 制服を着ていない彼は元より学校になど行く気はなかったのだろう。俺は善良な市民二人に労りの言葉と猫の居場所のメールを送った。 「Hey,佐助、腹減ってるだろ。」 「え。あ、ほんとだ。もう11時か。確かにちょっと空いてるかも…」 朝ご飯も食べていないし、熱があると言ってもそこまで食欲が無いわけではない俺様は素直に頷いた。 「そうだろうと思ってな。いいもん作ってやる。」 にっと笑って手に持っていた袋を見せてきた彼はやはりかわいい。 「嘘、嬉しい。政宗の手料理食べれるとか!!」 「食材から選んだからな。作り方も小十郎に教えてもらったし。」 政宗が親ちゃん達から脱走してここまで来るのに妙に時間がかかっているのはスーパーで買い物していたからか、と一人納得していると政宗がいいからおまえは寝とけ、とベッドに押し込まれた。がさごそと紙袋から白い布を取り出す政宗をぼんやりみていると、政宗はいたって普通の顔をしてその白い布、(つまり、ふりふりのエプロンなのだが。)を身につけた。 「ちょ…政宗それ、どうしたの…」 そんなプレイしたっけ?という疑問はどうにか飲み込んだ。 「ん?あぁ、小十郎に借りてきた!!」 片倉さん、毎日あんなの付けてんだ… なんだか切ない気持ちになりながらも、少しもおかしいことに気付いていない政宗を、せっかくだから目の保養だと思い眺めた。 「さすけ…」 「ん?あぁ、俺また寝てた?」 「ん。」 部屋の中は何やら良い匂いが漂っていて、俺は旦那の作った男の料理とかいうものを一度食べたことがあるんだけど、そのときの様な猛烈な後悔に陥ることはないだろうとほっとした。 「できた…」 「わ、嬉しいな。」 良い匂いに期待して笑顔の俺様とは裏腹になんだか微妙な顔をしている政宗。 「え…えぇと何?どうしたの?」 「いや、あの。その…」 ごにょごにょと言っている政宗は何やらどんぶりを持っている。一体病人にどれだけ食わせる気?と思いつつも優しい笑顔で対応する(どちらが病人だよなんてツッコミはしない)。 「良い匂いしてるから失敗なんてことないと思うし、政宗の作ってくれたやつならなんでも嬉しいよ?俺。」 ね?と言ったら恥ずかしそうにもじもじしながらどんぶりを差し出してきた。 「ぞ、雑炊作った…おかゆ、まずいし。で、出汁とか作ってたんだけどな、」 「これは…」 中を覗けば普段の2倍くらいに育った米が最早お餅のようにくっつきそうになりながら敷き詰められていた。 「…雑炊?」 「う…その、なんでも煮込んだ方がうまいと思って、一時間くらい蓋してたら、汁無くなってて…」 なるほど確かに出汁は無い。代わりにぱんぱんに膨らんだお米がある。これはなかなかの強敵だ。 「悪い…こんなこと、したことなくて…」 ふやけた米を見つめていると政宗の声が震えてて、途端に俺は後悔する。折角政宗が作ってくれたのに、一体俺は何を不満に思っているんだ!! 「ううん、政宗ありがとう。俺是非食べたいな、」 にこりと笑ってどんぶりに埋もれていたレンゲを掴み、一口分掬う。べとりとした感覚を無視して口に含む。優しい味だ。 「おいしい。」 頭を撫でてそう言ってやれば一気にぱあっと表情が明るくなる。 「そ、そうか?」 「うん。良い出汁出てるよ〜」 二口目を食べようとすると政宗は慌ててレンゲを俺から取り上げ、中の米にふーふーしだした。 「ん。」 差し出されたままに食べる。自分でやっておいて恥ずかしかったのかぷい、と視線を逸らす政宗のかわいさったら!! 食べきれなかった分はラップをして冷蔵庫に入れておいてもらい、薬箱に入っていた市販の薬を飲む。口移しで飲ませてよ、って言ったら、苦いの無理って返ってきた。うん、それなら仕方ない。 薬を飲み終わってなんだかうとうとしていたら、ごそごそと政宗がベッドに入ってきた。 「政宗、移るよ。」 「今更だろ。もうちょいそっち寄れ。」 「そうだけどさぁ」 そう言いながらベッドの隅に寄るのは、とても嬉しいからで。 「熱あるときって夢見悪ぃだろ?だから俺がここで見ててやる。佐助が辛そうだったら起こしてやる。」 だから寝ろ、て頭を撫でられた。いつもと立場が逆転していてなんだか恥ずかしくなったけど、俺の左腕を腕枕にしちゃってる辺り、政宗らしくて思わず笑ってしまった。 「ふふ、じゃぁお言葉に甘えて添い寝してもらおうかな。」 「おう。」 「おやすみ。」 政宗のおでこにキスをして目を瞑る。政宗が傍にいるだけで、とても良い夢が見れそうだと考えていると。 こほっ 「…政宗今咳した?」 「…してねぇ」 目を開ければなんとなく赤い顔した政宗。おでこに触れればこちらもなんとなく熱い。 「…移ったね…」 「…」 ばつの悪そうな顔をする政宗をぐっと引き寄せて背中をぽんぽんたたいてやる。 「こうしてればどっちも怖い夢見ないでしょ。」 「俺、ちっとも…役に立てなかった、」 「なぁに言ってんの!」 少し顔をずらして真っ正面から政宗を見る。そのまま、さっきは移ると思ってできなかった柔らかい唇にキスをする。 「ありがとう。政宗が来てくれただけで、幸せだよ。」 この後二人で病院行こうね、と言って厭がる政宗の頭を撫でつつ、結局いつも通りになっていることに気付く。既に眠りに入ってしまった恋人に苦笑いをして、俺もようやく目を瞑る。 怖い夢など 見なかった。 -------------------------------------------------------------------------------- あとがき まずは一万打とアンケご協力ありがとうございました!!幸せな佐政の人気が意外と高くて驚きました。うちは幸せと不幸が紙一重なお話ばかりでしたので(・_・;) お話の中で政宗様が料理下手?みたいになっていますが史実ではお上手だったとか。でもどうしても料理失敗しちゃう政宗書きたかったのです…… ではお付き合いいただきありがとうございました!皆様のご期待に添えたかは不安なとこですが、これからもよろしくお願いします。 [*前] | [次#] |