「バレンタイン?良い思い出なんてないね。」 佐助が止めたと言っていた筈のタバコに火を点けながら気だるげにそう言った。 「貰えなかったってわけじゃないけど。貰ったチョコが酷かったの。」 のぼる紫煙を見つめながら俺はぼんやり考える。寒い。寒いけど、仕方ない。 「私のこと好きなら食べれるよねって言って貰ったマフィンに髪の毛入ってたり、浮気してた頃のは生チョコに画鋲入ってたり、ねぇ聞いてる?」 iPodと携帯とハンカチとリップと財布とキーケースと、なんていうか、あれだけ入ってる通学用の鞄を大事に抱えている俺はこいつからしたらものすごく滑稽なのかもしれない。 「なんだよ聞いといてー。そういう伊達ちゃんは?モテるでしょ。」 「おおおおお、おれ、おれはっ、その、あれだ、りょうり、しゅみで、で、」 「うんうん知ってるーてかなに噛みすぎ。」 佐助が笑って俺の前髪をかきあげた。体温が上がるのがわかる。せっかく寒いのを耐えてまで大事にしていたあれが溶けてしまう。 「伊達ちゃん?」 「しゅ、しゅ、しゅみだから、その、ふかいいみとか、べつにほんと、あのこれ、」 手のひらサイズの小さな箱。中には昨日作ったトリュフ。溶けやすいから、今日は一日授業をさぼった。 「伊達ちゃん…」 「や、あの、ほんとにほんとふかいいみとか、ね、ねぇし、」 震える手が恥ずかしい。どこの乙女だ。駄目だ死にたい。きもい。嫌われた。だって佐助なんか声が震えてる。ちがうちがうこれに深い意味なんてなくって。 「伊達ちゃんに深い意味なくても、こんなの貰ったら、俺勘違いしちゃうけど、いい?」 やばい。なんでこいつこんなかっこいいんだよ。 「い、」 「い?」 「いい…」 消え入りそうな言葉は紫煙と共に風に流れることはなく、佐助に届いた。 ▼ブログにあげてたのを収納。 乙女伊達! |