「モテる男は辛いねぇ、」 伊達ちゃんと連絡がつかなくなって丸二日。不審に思って自宅へ訪ねてみれば、チェーンの為に最小限に開けられた扉から憔悴しきった伊達ちゃんが覗いた。 「しゃべんな、寝かせろ。」 「はいはい。」 伊達ちゃんは実家が金持ちだしモデル並のいい体に端正なお顔、その上頭もいいときたからそれはもう女性に慕われるわけなんだけど、唯一の欠点というか、最大の問題というか、伊達ちゃんは人を好きになることが出来なかった。 「だいたい俺は付き合うなんて言ってねぇ、」 「知ってるよ。」 「なのにあの女、彼女気取りしやがって、くそっ!」 シンプルな部屋によく合った黒革のソファに置かれた携帯を手にとってメール画面を開けば同じ女からのメールが分刻みで入っている。着信も同様。 「すっごいのに好かれちゃったね。」 「内容見てみろよ、」 そう言われてメールを確認する。なんで返信くれないの?という俺の予測に反して、内容はまるで伊達ちゃんからの返信があったように、ものすごくナチュラルなもの―例えば、おはよう!昨日はバイト忙しかった?今、用事立て込んでるのはわかってるんだけど、お昼だけでも一緒に行かない?みたいな内容―になっている。そんな内容のメールが幾度となく送られてきている。 「これ返事してるの?」 「してねぇ。あぁ、一回だけ彼女できたからメールやめてくれって言った。」 「あはは、なのにメール来るんだ!ちょっとそれいつ?返信見たい、」 「三日前。つか笑い事じゃねぇから、」 伊達ちゃんの言葉を無視して三日前のメールを探す。 「なになに…『そっかー分かった。やっぱ伊達くんモテるんだね。おめでとう。でも友達としてならメールしてもいい??』ふは、メールやめてって言ってんのにメールしていいってなにこれー」 「だろ、しかも友達としてって、元々友達のつもりだったんだぜ。」 「なんて返したの?」 「ややこしいからやめろって返した。」 ふんふん、と俺はその次にきたメールを確認する。先ほどのように口に出して読もうかと思ったが、伊達ちゃんの疲れきった顔見てたら読まない方がいい気がしてきて俺は笑いそうになるのを押さえながら二度ほどそのメールを読んだ。ちなみに内容は、『あのさ、すごく急だなーって思うんだけど、もしかして私なんか伊達くんにした?それなら謝りたいし言い訳もしたいし、一回会ってお話しよう?せっかく仲良くなれたのに急にメールもできないなんて寂しいよ(;_;)』というもの。俺ならこの時点で携帯半分にしてるね。 「やばいね。怖いね。俺としてはすごい面白いけど。」 「まじで勘弁してほしいぜ…だいたい付き合ってもないのに会って話すってなんだよ。言い訳ってなんだよ。」 「ね!なんかされたの?」 「あー?しつこくメールされたことだな。」 「あはは、」 それからも女は次に活かしたいから悪かったところ教えてくれだの、彼女さん束縛強いんですね、だのバーチャル彼女の悪口まで言い出す始末だ。 「メアド変えればいいのに。」 「バイト先のやつだ。無理だろ。」 「あー気まずいねぇ、」 メールを無視してる時点で気まずいだろうということはこの際言わない。俺は伊達ちゃんが寝ころぶベッドに座り、隈ができた左目をなぞった。 「ふふ、彼女じゃなくて正直にちょうかっこよくてセックスもうまくてしつこくない彼氏がいるので無理です付き合えません、って言えばよかったのに。」 「ああ、後悔してるぜ。」 「あらあら素直じゃない。」 「うっせぇ、佐助…」 「ん?」 「俺が気失うまで抱け。」 何も考えたくないと言おうとした彼の唇を塞ぐ。言われなくたってそうしてあげるつもりだったけど、言われたからにはご期待にそぐわぬよう最高に気持ちいい状態にしてやろうじゃない。ああそうだ、ひとつ訂正があるね。伊達ちゃんは人を好きになれないんじゃない。俺以外の人間が好きになれないのね。 ぎしぎしと音を立てるベッドの横で、伊達ちゃんの携帯が鳴った。 ▼かっとしてやった。反省はしている。 でも一言言いたい。シツコイオトコハダイキライダ!! お付き合いありがとうございました。 |