そんな佐助に転機が訪れたのは3年程前になる。その当時は東軍と些細な抗争があり、ほとんどの者に戦争経験が無い軍隊では出兵への興奮や不安が混じり在っていた。 佐助は緊張などしていなかった。むしろ、諦めに近いものを感じており、その若さにしては早すぎるくらい死を受け入れていた。しかしそんなとき、一人の青年と出会った。 「貴様名はなんという?拙者は真田幸村と申す。」 死を受け入れていた筈の佐助はこの声の主によって変わることとなる。 「猿飛って二等兵が慰官に?」 「俺は伍長に抜擢されたと聞いたが。」 「いやいやなんでも真田中佐に附いたらしい。」 結局東軍との抗争は出兵無くして解決に至った為、昇級は考えられぬものだった。ところが佐助は抗争終了の知らせが聞かされると同時に寄宿舎を移ることとなる。昇級であった。 「幸村よ。こやつがお前の云うておった猿飛か?」 「は。そうで御座います。是非とも大佐殿に見て頂きたく連れ申した次第で御座います。」 「うむ。」 佐助は自分の置かれた境遇に驚きを隠せないでいた。佐助が連れてこられた先は一般兵などとても入れるような場所では無い、自軍の頂点でもある武田大佐の部屋であった。 武田は渡された資料もほどほどにじいと佐助を見た。佐助は少しの居心地の悪さを感じながらも目を逸らすことなくその視線に耐えた。 「うむ。佐助と申したな。」 「は。」 「お前は幸村に附け。」 「真田中佐に…自分が?」 佐助はちら、と隣に控えている真田幸村そのひとを見た。真田は溌剌とした表情、羨望の眼差しで大佐を見ており聞き及んだ年齢より幾分若く見えた。 「幸村では不足か?こやつこう見えてもなかなかやりよるぞ。」 「い、いえ、滅相も御座いません。ただ自分の様な者が突然中佐につくなど信じられず…。自分の両親はしがない農家ですし。」 「農家が居らねば我ら軍人は飯を食うことが出来ぬ。家庭を恥じることなどない。資料を見た限りお前は頭も切れるし戦闘技術も申し分ない。どうか少々頭の足りぬこやつに力をかして貰えぬか?」 その日を境に佐助は幸村の元で主に情報収集を扱いながら働くこととなった。 |