*どっちも男です。 「いらっしゃーい。あがってあがって!」 土曜の午後六時。小さなアパートの一室の前に男が三人。玄関先にやたらと笑顔の男が一人。 「け、幸せオーラ出しやがって。」 「いいねぇいいねぇ新婚さん!あやかりたいねぇ!」 「佐助、その顔どうにかならんのか。」 口々に笑顔の男に文句等々言いながら部屋の中へと入っていく。笑顔の男は厳しいことを言われたにも関わらずその笑顔を崩すことなくドアを閉めた。 「おじゃましまーす」 三人の声に政宗は握っていた包丁をまな板に置き、手を洗いタオルで拭きながら慌てて三人を出迎える。 「あ、wel…じゃなくて、いらっしゃい。」 いつもの癖ででかかった英語をなんとか留めぺこりと頭を下げる。そんな政宗の横に笑顔をキープしている佐助がすっと立つ。 「政宗、顔上げて!はいみなさん注目ね。こちらが俺様の自慢の奥さん、政宗です!はい拍手!綺麗でしょーかわいいでしょー?」 「ばか、かわいいとか…つぅか奥さんじゃねぇし…」 顔を真っ赤にする政宗を見て佐助の頬は緩む。それを見かねて元親がいい加減にしろと軽く叩くと佐助が見るからに嫌そうな顔をして仕方ないなぁと息を吐いた。 「で、政宗紹介するね。この三人が俺の同僚で、厳つい銀髪が親ちゃん、」 「ちっす。」 「髪の毛長いのが慶ちゃん、」 「どーも!」 「で童顔のいぬころが真田の旦那ね。」 「お、お初にお目にかかります!」 政宗が名前を確認するとすうと息を吸い、にこりと笑う。 「佐助がいつも世話になってんな。今日はゆっくりしていってくれ。」 飯の支度がもう少しだから先につまみながら呑んどいてくれと言い、佐助と政宗はキッチンに立っている。 「おい、なんであんな美人が佐助なんぞについてんだよ。」 「俺が知りたいよ!はーさっきの笑顔はやばいねぇ。」 「しかもこの肴も美味でござる!」 こそこそと同僚の奥さんについて話しながら二人を凝視する。料理の合間に顔が寄ればちょっと見つめ合ってキスをするなんて今年の新入社員のおかっぱ女子が憧れそうな光景を目の当たりにして三人は眉間に皺を寄せながらも見るのを止めない。 「なぁ…」 「なんでござるか元親殿、」 「俺やっぱ駄目だわ奪うわこれ。」 元親が拳を戦慄かせれば慶次が慌ててその手を抑える。 「わぁ何言ってんだい元親!略奪愛はよくないって!」 「うるせぇ止めんな。」 「ちょっと幸村も何とか」 「略奪愛…甘美な響きでござる…」 キッチンの政宗を凝視しながら熱に浮かされたような表情でそう呟いた幸村に慶次は元親の手を離すことはせずに制止の言葉を投げ掛ける。 「駄目だよ幸村!恋愛ってのは優しい気持ちをもたなきゃならないんだ。略奪愛なんて」 よくないよ、と言おうとしたのに最後まで言葉が出なかったのはにこにこ笑顔の佐助が目の前に立っていたから。 「なぁによからぬこと話してるのかなぁ。」 「うわっ佐助!はは、別に、ねぇ?」 「おい佐助あの別嬪さんよこせ。」 「親ちゃん馬鹿でしょ。」 「佐助!あの方をみんなのものとしよう!」 「旦那まで何言っちゃってんの!」 いい年した男4人がわいわいがやがや騒いでいるのを政宗は優しい優しい笑みを本当にうっすら浮かべながら見つめていた。政宗にとって佐助が自分以外の親しい人とこうして本音で話しているところを見れることは珍しいのだ。内容が内容なだけに聞くには耐えないが。 「Hey、料理出来たから騒ぐんじゃねぇよ。佐助も料理運べ。」 「はーい!」 政宗が声をかければ一瞬で静まるリビング。並べられていく料理にお客様である3人は目を輝かせた。 「すごいでござる!サーモンが薔薇でござる!」 「ローストビーフ手作り?」 「刺身も綺麗なもんだな、」 置かれた皿には次々と箸がのびる。うまいうまいと同僚が言うのを佐助は自慢げに見ていた。ようやく流しの片づけを終えた政宗が戻ってくると三人はぴたりと箸を止める。皿は既に半分空になっていた。 「Haha、良い食べっぷりだな。遠慮せずに食ってくれ。」 政宗が笑ってそう言うと三人の止まっていた箸が再び動き出す。政宗の料理は本当に旨いのだ。 「ごちそーさん、」 「ありがとう政宗さん。」 「まっことおいしゅう御座いました!」 三人が口々にお礼を言い終えると政宗はThank you.と微笑む。そんなことにすら三人はぽう、としてしまうのだが政宗の横の佐助がにこにこと笑っているのが妙に恐ろしく平静を装う。すると政宗がす、と佇まいを直し指を揃え、深々と三人に向かって礼をした。礼を言う立場の三人も、隣の佐助もぽかんとしている。 「政宗?」 「今日は、来てくれてありがとう。結婚式も挙げれない俺たちだけど、これからも佐助と仲良くしてやって欲しい。二人でけんかして、迷惑かけたりすることもあるかもしれねぇが、そんときは佐助の味方をしてやって欲しい。よろしくお願いします。」 頭を下げたまま言い切った政宗の横で佐助も頭を下げた。 「そういうわけでよろしくお願いします。でも政宗に手出しは許しません。」 三人は頭を下げたままの二人を見て目尻を下げる。この二人は、まったく、そこいらの新婚さんよりも見てて恥ずかしいくらいいちゃいちゃっぷりなのだ。 「おうよ、任せとけ。ま、お前等二人がけんかしたときは間違いなく奥さんの味方だけどな。」 「な!ちょっとちかちゃん下心見え見え!」 「某だって政宗殿の味方でござる。」 「じゃ、俺は審判を下そうかな、」 幸せな幸せな二人は幸せに幸せに暮らしていくようです。 ▼お付き合いありがとうございました。 今年もよろしくお願いします! |