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「ねぇ、俺の名前を呼んでごらん。」
「さ、る」
「違う。佐助、って呼んで。」
キスをされた筈の頬を叩かれ政宗は恐怖から涙目になりながら怯えた声でさすけ、と呼んだ。すると猿飛は満足そうに微笑み横になる政宗を自分の膝に乗せ、抱きしめた。
「政宗がここで静かに暮らしてくれるなら痛いことなんて何もしない。誰よりも何よりも愛してあげるし欲しいものならなんだってあげるよ。」
欲を言えば俺のことを心から愛してほしいけど、と言った猿飛の顔はどことなく悲しそうに見えたので政宗は頷いた。愛されないことがどれほど悲しいのかを彼は幼少期嫌というほど学んできたのだ。
「愛してるんだ、昔から。気が遠くなるような昔さ。あの日記には記憶を取り戻し始めたときのことが書いてある。始めは断片的なことしか書いてない。それでもあんたの名前が出てこない日はないんだよ。」
一途でしょうと言う猿飛の背中になんとなく政宗が腕を回そうとしたとき、声が温室に響いた。
「ご主人様、お茶が入りました。」
かちゃかちゃと音を鳴らしながらカップを持ってきた男を見て猿飛は思い切り顔を歪めた。しかし使用人は少しも動じることなくむしろにこっと笑ってみせた。
「頼んでない。下げて。」
「畏まりました。しかしご報告が一件、」
茶色い髪の男はトレイをテーブルに置くと猿飛に耳打ちをした。
「片倉工場長が血眼になって政宗殿を探しておられます。おそらく見つかるのは時間の問題かと、」
それを聞いた猿飛は口を歪めて笑う。
「まったく、立場ってもんを分かってないね。あの人も、そしてあんたもね。」
従順なのは政宗だけだよ、と膝に乗っけたままの政宗をぎゅうぎゅう抱きしめ首筋にキスマークを残すと挑発的に使用人を見た。
「今回は報告を理由にお咎め無しにしてあげるけど、あまり邪魔をするようなら容赦しないよ、真田。」
「…承知致しました。」
使用人が立ち去るのを見届けてから猿飛は声を大にして笑いだした。政宗はそれを怖く思いながら、ただ静かにしていた。
「はは、そうだ。今回は俺が誰より傍にいてあげる。あのときみたいに政宗は苦しんだり悲しんだり何かを背負うことなんてない。俺だって望みもしないのに死んだり、人目を忍ぶ必要なんてない。次こそ、幸せになれるよ。」

歪な歪な温室のはなし。







▼補足
転生だけどパラレルワールドです。
政宗さま以外はみんな記憶あります。
佐助は忍であったことにコンプレックスを抱いていたらいいな、てはなし。



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