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教会のようなドーム型の、ガラス張りの美しい建物。建物の外の鉄柵には真っ赤な木苺が茎を巻き付ける。あたたかなそこは、歪な歪な温室。

「今日もきれいだね」
温室の主人はにこやかに微笑みながら美しい植物に囲まれた柔らかなソファに横になる青年の頬を撫でた。青年は一瞬びくりと目を見開いたが主人の姿を確認すると静かに目を閉じた。
「うれしいなぁ。もう懐いてくれたってとっていいのかな?」
傍にある椅子に腰掛け主人がそう言っても青年は返事をしない。主人もまた返事を必要としていなかったのか持参していた過去の日記をぺらぺらとめくった。



主人の名は猿飛といい、この街の有力者の一人息子で、一年前に父を亡くしてからというもの彼自身が家を担ってきた。幸いなことに政治や経済に関して強かった彼は一年足らずで父親の代を越える有力者となったのだ。
「ふふ、経済や政治なんて時代が違っても、世界が違っても根本は同じ、なんだよねぇ。」
いやぁ昔、うん、昔でいいのかな、いつもわかんなくなるけど兎に角昔か、苦労しててよかったよと猿飛は独りごちる。それを青年は不思議そうに薄目を開けて見ていた。
「また頭がおかしな話をしてると思ってるでしょ。」
猿飛が視線を日記に落としたまま急に話をふってきたことに青年は再びびくりと体を震わせる。猿飛に殊更媚びたり機嫌をとる必要はないのだが、機嫌を損ねさせると自分にとってはよくないことしか起こらないことを青年は重々承知していた。なので盗み見ていた目をぎゅうと閉じてふるふると頭を振る。すると猿飛が別に怒りやしないって、と日記を閉じた。
「俺だって自分に記憶がなければ前世なんて言われたって鼻で嗤うね。いかれた電波だと思って相手にもしない。でも俺には前世の記憶がある。」
猿飛は再び青年の元へ行くとその唇にキスをしてふふ、と笑う。青年は拭いたい気持ちを抑え大人しく主人を見ていた。
「あの当時なら俺はあんたにこんなことをすることすらかなわなかったんだよ。身分が違いすぎるということもあるね、敵だったということもある。」
青年は主人の言葉の意味をよく理解できないで聞いていた。青年の名は政宗。身寄りのない子供たちが集まる孤児院で育ち、ようやく独立し、学が無くてもどうにか働かせてくれる工場に勤めた矢先この主人によって捕らえられたのだった。
身分が違いすぎるということはこの男はどっかの国の王様で、俺は奴隷かなんかだったのだろうかと考え、違うな、という結論にいたる。奴隷なんぞに王様が愛を紡ぐ筈がないと政宗は思い直した。政宗は猿飛に寵愛されていた。
「一目でわかったよ、あんただ、ってね。うつくしいから。」
額に、鼻に、頬に、唇に口づけしながら猿飛は言う。政宗はここに連れてこられたときはそれはもうキスの一つにも抵抗したものだが、一度酷く暴力をふるわれ裸のままこの温室にある薔薇の中に手足を縛って放り投げられ、丸一日飲まず食わずで放置されてからというもの抵抗はしないようになった。





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