小説 | ナノ




これのつづき

「ありがとうございましたー」

気の抜けた店員の声を耳の端でとらえながら、俺は学校から帰ったときと同様に猛ダッシュ。だって熱があるときって妙に悲しくなるじゃない?



「ただいま、」
寝てるかもしれないから、と一応小さめな声でそう言うと、奥からいつもより掠れた声で、おかえり。
「起きてたんだね、どう?なんか食べる?」
コンビニ袋の中のスポーツドリンクにシャーベット、ゼリー、レトルトのお粥を見せると政宗はいらねぇ、と口まで布団を被った。これはなかなかしんどいらしい。取り敢えず夕食までは時間があるので冷蔵庫に閉まって、冷却シートを政宗のおでこにぺたりと貼る。
「つめた、」
「頭きんきんしない?」
頷いた政宗の頭を撫でて、ちょっと寝な、と言えば大人しく目を瞑る。その腕の中にはまだ俺の枕が収まっていてかわいいなぁと思う反面俺がいるんだから離してほしいなぁ、なんていう思いも少し。
すうすうと寝息が聞こえてきたら熱い頬にキスをして立ち上がる。
「よし、」
普段は二人でやってる洗濯物の取り込み、お風呂洗い、部屋の片づけを一人でこなせば時間はあっと言う間に過ぎている。レトルトのお粥を鍋で温め、梅干しを潰してから買い置きしていた薬をテレビ横の薬箱から出す。政宗が粉薬飲めないから、うちは錠剤。
「政宗、ご飯にしよっか。」
頭をなでなでしながら呼びかけるとゆっくり目が開く。熱の所為なのか目がとろんとしてる。
「食欲ない…」
「しんどくても食べなきゃ。薬飲めないから、ね?」
そう言えば渋々と上半身を起こしたけど、ふらふらして辛そうだから政宗の後ろに座って俺自身に凭れさせる。体熱いなぁ。
「はい、あーん。」
ふー、とした後にれんげを口元に持っていくと困ったように俺の方を見上げ、やや迷ってから赤い口が小さく開いた。
「よしよしいい子いい子。」
もう一口持っていくと次はスムーズにぱくり。そうやって半分くらい食べたところで政宗がふるふる首を振った。
「も、いらねぇ。」
「んーもうちょっと食べて欲しいとこだけど、」
しかしまぁ無理に食べさせるわけにはいかないから残りはささっと俺が食べる。政宗が、風邪うつるぞ!なんて言ってるけど平気平気。
「さ、薬飲もうか。」
「……」
お椀を置いて錠剤の入った瓶を持つと政宗の肩がびくん、と揺れる。
「錠剤だから苦くないよ。」
ね?と薬を見せてみても政宗の顔は強ばるばかり。そんな姿もかわいいけど、やっぱり俺は元気になってほしいわけで。
「政宗、」
お粥の時は小さいながらも赤い口を開けたのに薬となるとぎゅう、と引き結んでいる。今日は甘やかすと決めたけど、薬に限っては引けない。俺は政宗を対面に座らせ錠剤を手に取り、政宗にキスをする。
「んっ、ふ、」
熱のある咥内はあつい。逃げる舌を追いかけ角度を変えて深くキスをし、顔を離したところで錠剤と水を口に含む。キスの余韻でふわふわしている政宗の顎を掴み再び口付ける。今度は薬と水と共に。
「――っ、い、」
「はい、よく飲めました。」
「今、み、水」
突然入ってきた水に驚いた様子ではあるけど薬は上手に飲めた政宗の頭を撫でてやる。熱い体は肩で息をしていて、無理をさせてしまったかなと反省。今日はお風呂やめさせて早く寝かせなくちゃいけない。
「ちょっと早いけど、歯磨き、洗面行ける?それとも洗面機持ってこようか?」
「洗面、行ける、」
「そっか、じゃぁ抱っこして、」
「佐助!」
政宗を一度膝から下ろし、立ち上がろうとすると腕を引っ張られそのままバランスを崩し政宗に覆い被さってしまった。
「ちょ、まさ」
「佐助、いろいろしてくれんの、嬉しいけど…」
密着している所為でいつもより掠れた声がダイレクトに耳へ伝わる。これはなかなかの破壊力だ。
「まだぎゅう、てされてない。」
「え…?」
意味がわかんなくてぎゅうって、ハグのことだよね?と聞けば政宗が顔を赤くして頷く。
「ぎゅう、くらいいくらでもしてあげるけど…」
そして、はっとする。政宗を置いてコンビニに行くとき、俺はなんて言ったんだっけ。視界には俺の枕が転がっている。
「政宗、遅くなってごめんね。」
「…ん」
政宗の腰に腕を回し寝ころんだままぎゅう、してやる。ゆっくり、控えめに俺の腰にも回された腕がかわいい。
「早くよくなってね。」
「あぁ…」








「佐助、起きろ!」
「まさむ…ね…」
窓から刺す光に目を細めると、愛しい人のシルエット。暫くぼんやりして、がばっと起きあがる。
「あれ?政宗、もういいの?」
洗濯物をぱんぱんと干している政宗は昨日歯磨き後に熱が上がり泣きそうな顔をして横になっていたのだ。
「おかげさまで、な。もう熱もない。」
ベランダから室内に入ってきた政宗の顔は確かに熱っぽさもなく顔色もいい。良かったね、とキスをすれば少し顔が赤くなるのは通常運行の証だ。すると政宗が赤い顔のまま俺の服の裾を掴み、ごにょごにょと口を動かす。
「さ、佐助が、あの、」
「ん?」
「佐助がいっぱい甘やかして、楽にしてくれたから、治った、から…ありがとな。」
ちょっと、なに、かわいすぎやしませんか!

「もー政宗本当大好き!」
「わ、お前、苦しっ」
昨日は遅れてしまったぎゅう、をしてやりキスをする。これからは、風邪じゃなくたって甘やかさせてちょうだいね。






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