小説 | ナノ




俺が初めて政宗殿とお会いしたのは小学校六年生の夏であった。夏休みのよく晴れた日にプール開放日があり、俺は数人の友人等と参加した。じりじりと焼き付けるような日差しはいつしか雲に隠れ、次第に雨が降り始め、帰る頃には大雨となり、参加者は足止めされてしまった。
外は風が吹き荒れ嵐のようで、薄暗い下足室にプールのバッグだけを持って立ち尽くす。十分程すると一人の保護者が子供の傘を持って現れた。迎えが来たものは嬉しそうに帰っていく。その後ろ姿を見た途端、俺はきゅうと胸が痛くなった。

(俺には、迎えは来ぬ。)
(仕方ないのだ。父上も母上も仕事が忙しい。)
(雨がやめばこのような軟弱な考えもなくなる。)

しかし雨は止まない。それどころか酷くなる一方であった。一緒に参加していた友人も、一人、また一人と保護者と共に帰って行く。そしてついに俺は、一人になってしまった。

(父上、母上…)

雨が上がれば一目散で帰れるよう土で汚れた下足室に丸くなって座った。心の底では父上か母上が迎えに来てくれるのを期待していたのかもしれない。

「Hey、おまえ“ゆっきー”てやつか?」

聞き慣れない声に膝に埋めていた顔を上げる。近くの高校の制服である白いカッターシャツに紺のチェックのスラックス、そして、ひどく整った顔が視界に入った。

「あ、なたは…」

「あーゆっきーいた!」

「佐助!なぜここに、」

幼なじみの佐助の声に驚きより安堵を覚えた。それを察したのか佐助は優しく笑ってみせた。





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