小説 | ナノ
クライベイビー



今日もまたお前の泣き声が聞こえる。
今日はなんだ。どっちだ。
どっちだってなんだって俺が愛してやるけれど。



「ちー、」
小さな声に目を覚ました。寝たときは真っ暗だった部屋に細く光が差している。
「ちー、寝た?」
「いや…起きてるぜ。」
そう返せば、ドアを開ける音と共に細かった光の幅が大きくなり、人影が見える。長身の筈なのに小さく見えるのはいつものことだ。
腕を上げ布団を捲ればもぞもぞと入ってくる。体が冷えているから抱きしめてやると甘えたように頬摺りをした。



政宗は俺のことを元親と呼ぶ。面倒なときでも、ちか、と呼ぶ。でも今俺の腕の中でうーうー唸ってるのも間違いなく政宗だ。
「どうした?痛いのか?」
そう訊ねると頭が痛いと涙を流し、なでて、なでて、と普段なら想像も出来ないくらい呂律の回らない口調で言う。
果たして頭痛が撫でてやることで治るのか俺には分からないが、それでこいつが楽になるなら、とさらさら撫でてやる。
「ちー、ちー」
ぐずぐずと鼻を鳴らし、俺に縋る政宗を初めて見たときは正直驚きで何も出来なかったが今ではもう慣れたものだ。医者によるとこれは幼児退行の一種らしかった。睡眠療法で幼児退行を行いトラウマの原因を見つけるというアレとはまたちょっと違うらしい。
「ほら、指吸うな。胼胝になるぞ。」
こんなことになる度に指を吸うもんだから親指が少し胼胝になりかかっている。正常に戻ったとき恥ずかしい思いをするだろうからと唾液でどろどろの親指をつつくとんーん、と甘えた声を出す。仕方なくちゅ、ちゅと音を鳴らすそこに俺の指を入れる。一瞬目をぱちくりさせたがおずおずと親指を引き俺の指を吸い出した。暫くそのままにしておき政宗の涙が止まったところで指を突っ込んだまま少し開いた唇に自分の舌を寄せる。
「ふ、ぅん」
鼻にかかったような声が聞こえると同時に指を抜き、政宗の口腔内に舌を入れる。口元はやらしく動かしながら髪は優しく撫でてやるとだんだん目を細めうっつらうっつらとしだす。そこでリップ音を鳴らして唇を離せば政宗は完全におねむモードだ。そのままとんとんと背中をたたいてやり眠りを促せば、ちー、と名前を呼んで眠りについた。俺もそんな政宗を腕に抱き込み中断された眠りに再び就いた。



幼児退行した政宗は泣き虫だ。
泣いて喚いて疲れたら寝る。
起きたら正常に戻っていて、幼児退行していた自分を強く責める。そしてまた、泣く。結局のところ政宗は泣き虫だ。
泣き虫だってなんだって、俺は愛してやるけれど。







▼さいごに
包容力あるアニキとちー、と呼ぶ筆頭が書きたかっただけって話。ちーってかわいいな、と思ったんだ。あとぐずぐずまーくんかわいいな、包容力アニキすてきだな、て思ったの。
cryと暗いをかけてたつもりだけどなにもかかりませんでした。

ここまでお付き合い下さりありがとうございました!



- 49 -


[*前] | [次#]
ページ:



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -