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ふれる



旅行をしようと言われた。
「夏休みも終わったし、観光客も随分と減っただろうからきっとゆっくりできるよ。」
俺は二つ返事で佐助の申し出を受け入れると携帯と財布だけ持って電車に乗った。景色が閑散としてくるにつれ電車の乗客も減っていく。
「俺達って周りから見るとどんな関係に見えるんだろ。」
「友達だろ。」
窓を見たまま答えた。よくよく考えれば二人で旅行なんて初めてかもしれない。
初旅行が温泉なんて時化てるが、俺達っぽいと言われればそうかもしれない。
「友達かぁ。うーん。」
佐助はそう言うと俺の右手を握った。
「てめ、何してる。」
「政宗、寄り添おう、寄り添おう。」
俺がそのまま動かないでいると佐助が寄り添ってきた。密着した体が熱い。
「あっは、みてみてあの人達俺達のことみてなんか喋ってる。恋人って思われたかな。」
「言ってろ。」
恋人同士どころか只のきもい男二人に思われただろう。今は旅行中だから我慢してやるがこんなこと地元でされたらピアスを下に引っ張ってるとこだ。
「あー降りちゃった。」
俺達を見てこそこそ言ってた二人組が降りると車内には俺達だけになった。次の次が目的地らしい。普通電車は、遅い。
「宿着いたら何する?」
「んー散歩?」
「散歩するとこあんのかなー」
「おい佐助、泊まるとこ調べてねぇのか。てゆうか予約してんのか。」
へらへらと笑ってどうにかなるってと言った佐助の手に爪を立ててやったたが案外どうにかなるものだった。
「おー見事な駐車場だ。」
値段をケチった所為で窓の外は駐車場だった。まぁ俺達は景色を楽しみに来た訳でもないし窓の外はどうでもよかった。
「じゃぁ散歩行って、温泉ね。」
「ああ。」
ぷらぷらと二人で歩く。男二人で温泉宿とはかなり浮いた存在だろう。手なんか繋いでりゃ尚更だ。
「視線が胸に突き刺さるね。」
「自業自得だろ。」
「あれ、今日は手を離せとか言わないの?」
「言ってほしいのか?」
ぷらぷらと手を振りながら、ぷらぷらと歩く。秋風が心地良い。
「ねぇお風呂出て布団がくっつけてあったらどうする?」
「どうもしねぇ。」
「まー布団離れてたってやることやるもんね。」
くだらない思いつきもいつものことだ。そのまま歩いて適当な店で昼飯を食べた。別段旨いというわけでもなく佐助が、
「政宗の料理のが美味しいね」
だなんて小さな声で言ってきた。これもまたよくあることなのだが、なんでか胸がいっぱいで俺は注文した蕎麦を少し残して店を出た。

旅館についてから二人でごろごろした。久々の畳はフローリングより柔らかい。気が付いたら寝ていてしまったようで、夕食を少し遅らせてもらい先に温泉に入ることにした。
「誰もいない…みたいな都合のいいことはやっぱないよね。」
佐助は残念そうだったがそれでも人は少ないし温泉はでかいから良い方だろうと思う。さっさと髪や体を洗い二人して浸かった。熱めのお湯が気持ち良い。力が抜けてくたっとしていると佐助が指先に触れてきた。「なんだよ。」
「んーあのさぁ」
佐助の方を伺えば真っ直ぐ前を向いたまま。しかし指は俺の腕をなぞっている。
「気がふれるって、言うじゃん。」
「は?」
突拍子もない発言に間抜けな声を出しても佐助は特に笑わなかった。それに反して指だけはついつい、と俺の腕を擽る。
「どんな漢字書くか知ってる?」
「いや…てゆうかやめろ、こしょばい」
拒否してみても佐助は止めない。それどころか腕から肩に指が移る。そのまま下に下がって胸の突起を擦られた。
「あっ、」
「あのね、気がふれるって、振る、とも触る、とも狂う、とも書くの。」
気が振れる
気が触れる
気が狂れる
「ねぇ、俺様気がふれたのかも。」
「ッばか、」
俺も気がふれたのだろうか。
その日俺は他にも人がいる温泉で一度達してしまった。
夕飯を食ってまた手を繋いで夜道を散歩した。暗いし人も少ないからと調子にのってキスをした。宿に帰ると布団は当然のように離れて敷いてあった。離れた布団をくっつけて馬鹿みたいにじゃれあった。
「ふふ、朝がくれば、地元に帰れば手、繋げないね。」
「そうだな。」
「でも別にえっちは出来るね。」
「そうだな。」
俺達は気がふれている。そのくせ変に体裁とか気にするから、恋人らしいことの一つもできない。
「旅行来てくれてありがとう。」
「いや…」
本当は、手繋げて嬉しかったとか周りから恋人同士と思われて嬉しかったとかいろいろ言いたかったけど、言ってしまえばもうどこにも戻れない気がして俺は最後に佐助の細くて長い指に触れて眠たいふりをした。







▼さいごに
なんか中途半端ですみません。こそこそ恋人やってる二人が旅行先ではちょっと大胆になってるのってなんかかわいいな、と思いました。蛇足ですが二人は脱いだものは旅館の洗濯機で洗ったので風呂上がり、浴衣のときはノーパンでした、なんてことも考えましたがどっかで下着買ったと思います。

お付き合いくださりありがとうございます!



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