小説 | ナノ
3





「夜這い、っつたらどうする?」

「え、あ、」

「抱くのか?抱かれるのか?」


白い指が煙管を片していく。雁首に反射した光が佐助の目を灼いたことでいつの間にか日が昇っていたことに気が付く。ここ最近の日の出時刻は午前五時頃なので、今日の予定を考えれば調度良い起床時刻だ。眩しさを、目を細めることでやり過ごしこれでようやくこの居たたまれない場から逃走出来ると肩の力を抜いた。

それがいけなかった。


「抱きます。」


口から滑らかに零れ落ちたその言葉は佐助が準備していた、すみません時間なので失礼します、という言葉とは少しも被りはしなかった。佐助は今し方自分が犯した重大な過ちを脳内で何度も再生させる。明らかなお戯れに真剣に答えた自分が剰りに信じられず、その場から逃走してもう一度眠りに就きたかったくらいである。しかしそうさせないのはやはり目の前の人物にあった。


「あ、だ、抱くって…お前、その、」


顔を真っ赤にさせ手を口元に持っていき小さく何事か呟いているその姿は先日見た軍の総大将という姿には似ても似つかなかった。


(なんていうか…)



先ほどまで、顔には出さずとも気を失いそうになる程困惑していた佐助の口元にはうっすらと笑みさえ浮かんでいた。目の前の人はそれにすら気付かぬ様子でぶつぶつと一人喋っている。

(先刻まであんなにも優雅に振る舞ってたのに、なんだかかわいいじゃない。)

佐助はガーデニングチェアから立ち上がると形勢逆転と云わんばかりに優雅な手つきで伊達の頬を撫でた。

「俺、あなたに恋しちゃったみたいです」



→あとがき



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