小説 | ナノ
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夢の中であの麗人は佐助の言いなりであった。きっちり着こなしていたコートの襟元の釦は外れ、白い首元には赤い花が咲く。コートの下は何も着ておらず、しかし黒革のブーツだけは履いているという不可解だが、情欲を掻き立てる格好だった。

佐助はそのブーツを召した左足を持ち上げ皮膚の薄い内太股にいくつも接吻する。そして気が済めば、小さくも抵抗をするその足をするりと撫で上げ、ブーツを脱がし、黒い靴下も脱がし、小さな足の指先を舐めた。


「………どんなだよ。」


悪夢の一部を思い出し佐助は頭を掻き毟った。軍隊でこうした男色が流行ったなどというのは遠い過去、軍の規制が厳しかった頃だ。当時は戦時中ということもあり女は皆疎開に出ていたことから軍やその周りにはどこを見ても男だった。だからそういうことが流行るのは仕方ないのだろうと佐助は学生時代授業中そんな話が出た時に思っていた。そして自分はノーマルであるし今の時代は軍に女性が属しているのも珍しくないし、町へ出れば女もいるので自分がそちらへ流れるなどとは少しも思っていなかった。


そんな過去の自分を裏切る夢を見た佐助はやはり憂鬱な気分で自分に近づくその存在にすら気づかなかった。


「随分と早いお目覚めなんだなぁ、猿飛」


良く通るその声に佐助は煙草から灰が落ちるのも忘れて呆然とした。先日見たかっちりとした軍服では無く、明らかに寝具と思われる淡い青色の浴衣に身を包んだ、本日の悪夢の原因が自分の目の前に立っている。


「Good morning、うちのbedは合わなかったか?」


伊達は袂から煙草ケースを取り出し、慣れた手つきで刻み煙草を雁首に詰めた。火を点けゆったりと煙を吸い込む姿を佐助は呆然としながらも目に焼き付けていた。


「あ、お早う御座います。いや、その緊張で目が醒めまして、えと…何故伊達大佐が此処に?」


夢での失態の所為でまともに正面を向けない佐助はいつもならべらべらと出てくる言葉を詰まらせる。情けないと思う余裕もなく只早くこの場から去りたいという気持ちで沢山な佐助の手から、握りしめていた携帯灰皿がするりと抜ける。
その感触に思わず佐助が顔を上げると携帯灰皿に煙管の灰を落とす伊達がにやんと笑った。





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