小説 | ナノ
七年でお別れ



関係ない。今が二千何年であろうと、これから二千何年になろうと。

握った手は酷く冷たくて、換気をしていない部屋は白い煙が充満している。

(火災警報機、鳴っちゃったりして)

灰皿はもう、いっぱいで、無理矢理突っ込んだら端っこの吸い殻が脱落。少量散らばった灰を見ないフリ。

「終わるな、もう。」

ようやく口を開いた彼の目は散らばった灰に向いていて、俺を見てはいない。

(見てよ、見て?)

「365日の区切りって、何なんだ?」

離ればなれになっちゃうなら、来年なんていらないんだと、君は言った。

「行事的な一年の始まりは4月だから、まだあるよ。」

「揚げ足取るな。」

冷たい手が強く握り返してきた。少し痛いと思うのを苦笑いで済まし、煙草に手を伸ばせば、どん、と衝撃が走って天井とこんにちは。

(あら、衝撃的な年の瀬。)

「なに、どーしたの?」

肌触りの良いポリエステルのパーカー(政宗の部屋着を拝借。これ、女の子の服屋さんで売ってた)が気持ち良いのか俺の胸元に頬をすり寄せる。

「甘えたなの?今日は。」

頷くこともせずに相変わらず頬摺りするその頭を優しく撫でる。

「離れたく、ないねぇ。」

別れは、いつか来るんだけど。
できるなら死ぬまで互いの面倒見て生きるような、瞳の優しい老夫婦くらい遠い未来の別れが良かった。

「…っ」

「政宗、顔上げてよ。」

(見たい。泣いてるその顔も、全部)

「年が明ければ、俺は東京行ってさ、政宗は地元帰ってさ。ふふ、こんなにずっと一緒にいたのにね。」

政宗と出会ってもう7年だ。高校で出会い、同じ大学。運命だ、なんて笑ったのを今だってきっと忘れてはいないけど。

(現実をみなきゃなんない歳に、なったんだよね。)

大人になるためには、十分なモラトリアムだったんだ。ただ、それが、ずっと続くような気がしてしまっただけ。心の弱い君が、溶けてしまっただけ。

「さす、け…行くなよ。」

「行くのは俺だけじゃないでしょ。」

苦笑いで返せば、胸元に埋められていた顔がこっちを見た。

わかる、わかるよ。
行きたくて行くんじゃないこと。
離れたくて、離れるんじゃないこと。

「だって、仕方ねぇ…」

(あぁ震えているこの声も、心に録音しとかなきゃ)

「一生会えなくなる訳じゃないんだから。ね、」

でも、その関係が、歯がゆくて、切なくさせるのに。

「俺は、いつだって…」

続きを言わなかった政宗の目には、薄い涙の膜。そんな顔さえも、心アルバムに貼り付けた。

「新しい年なんて、来なくていいね。」

昔は大晦日が待ち遠しくて、お正月が楽しみで、大人になった気がしていた。

「政宗が悲しむなら、いらないのにね。」

冷たい手は相変わらず冷たくて、張っていた薄い膜は滴となって頬を伝う。

(さよならを言うのは幾分早いけど。)

明日が来て、俺たちは、おめでとうなんて言わない。それでも望まない明日はやってきて、俺たちの距離を広めていく。

「明日、初詣でも、行こうか。」

優しく頭を撫でて、思いつきを話す。政宗は黙って聞いていたけど、きっと一緒に来てくれる。それなら、祈ろうか。

(どうか、政宗が泣いてしまいませんように、と)












あとがき

年が明けるって実はとても切ないことなんじゃないかなぁと思い書いてみたもの。暗くてすみません。死に別れとかじゃないから会えるんだけど、会いたいときに会えるわけじゃないし、余計辛いみたいな感じ…です。よくわかりません 笑

お付き合いいただきありがとうございます。皆様にとって良き年になりますように。



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