小説 | ナノ
君は君が思っている以上に頑張っている。



「辛いのは君だけじゃないんだから。頑張ってみようよ。きっと何か原因がある筈だから。」

隠していた虐めが公になってしまい、担任に呼び出されたとき、こんなことを言われた。

原因は俺にあるのか。辛いのは俺だけじゃないのか。なら一体誰が辛いというんだろう。地球のどこか、飢餓で苦しんでいる人?テロリズムに怯えて暮らしている人?確かに俺なんかより断然辛く苦しい思いをしているだろう。

でも。

俺のこの両手にそんな世界は入らない。もっと狭くてちっぽけだ。

「悲劇の主人公なんて嫌だよね。じゃぁもっと努力してみようよ。」

なんで気付いてくれないんだろう。努力した結果が、悲劇、なんじゃないか。

「教室に行ってみんなの前で伊達君の思ってることみんなに伝えてみようよ。大丈夫、私が味方よ。」


俺はひたすら走った。担任が何よりも恐ろしいものに見えた。呼吸の間隔が短くなる中、俺はこの世界から消えて無くなりたくなった。

「…消えろ、き、えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消え
ろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ…消えたい…」






小さくなって魔法の呪文を答えた。

自分を好きになれない人は他の人にも好きになってもらえないよ。

好きになってもらえなくたっていい。自分がこの世からいなくなったっていい。それでも、ただ、


「伊達ちゃんは頑張ってるよ。」

「伊達ちゃんの世界で一番辛くて悲しいのは、伊達ちゃんなのにね。当事者でも無い人間が勝手に悲しみの基準を立てることは、最早罪だ。」

「ねぇ伊達ちゃん、」




















「伊達ちゃんは充分頑張ってるよ。」

あぁ、涙が止まらない。

「しんどかったね。周りを解ろうとしたよね。」

「ッあ、お、俺、」

「自分を好きになろうとしたよね。」

「うううぅ、ひっく、」

「たくさん努力したよね。」

「ひぐっ、ふ、ぅ」

「ちゃんと生きてるね。それってとっても偉いんだよ。」

「────ッぅ」

「俺は伊達ちゃんが大好きだよ。」

いつの間にか魔法の呪文は終わっていて、優しい言葉が聞こえていた。













あとがき


こういう話ばっかりだな私…
最近はこういう浅はかな台詞を吐く人は少ないかと思いますが鬱の人に頑張れと言ってはいけないんですよね、ということをふと思い出してかいたもの。救いのあるお話にするつもりがなんだか薄暗い話になってしまった…

ではお付き合いありがとうございました!



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