そんな中俺が恰好のサボり場である保健室で場所取りしている理由。 「おはよ、伊達ちゃん」 伊達政宗を教室から連れ出したあの日、職員室に行く気がしなかったからとりあえず保健室に連れてきた。目はぐらぐら揺れて、無理矢理つけた眼帯にはじわり、血が滲んでいた。やはり明智先生はいなくて、俺が代わりに新しい眼帯を出してやった。汚れた眼帯を外そうとすると目に見えて震え出した伊達政宗の唇に自分の唇を押しつけて、ぺろり、とその柔らかい肉を舐めた。驚いたのか途端に静かになった伊達政宗の眼帯を素早く外し、血で汚れた部分を拭き取り、消毒液を浸したコットンで軽く叩き、ガーゼをあて、新しい眼帯をしてやった。 作業が終われば伊達政宗の震えは止まっており、静かに俺を見ていた。 「……」 「さっきまでね、明智先生いたんだよ〜レアでしょ。」 あの日から伊達ちゃんは教室に来れなくなった。正確に言うと階段を上る時点で目眩がして倒れてしまうみたいだ。 伊達ちゃんって呼び出したのは教室に入れなかった伊達ちゃんを偶然発見したサボり中の俺様が保健室に連れてきたときに、呼び方に困って突差に呼んだものだった。 「伊達ちゃんって真面目だよね。ちゃんと学校来るもんね。」 えらいえらいと頭を撫でてやったら先生のデスクに教科書を広げていた伊達ちゃんがぽそりと呟いた。 「家に…いたくないから…」 他の生徒と会うのを防ぐために時間をずらして登校するようになった伊達ちゃんは滅多に喋らなかった。それなのに、久々に聞いた言葉が、これ。 「んーそっかぁ」 聞きたいんだ。本当は。なんでこんなに不安定で、庇護欲を掻き立てられるのかとか、何が彼を掻き乱すのか、とか。 でも、聞かない。興味本位で彼を傷つけてはいけない。好奇心を満たすために彼の傷を暴いてはいけない。 「……聞かないのか…?」 「どうしたの?今日は饒舌だね。」 「…」 「聞きたくないって言ったら嘘になるよ。」 好きな子のことは知りたくなるのが当たり前、だから。 「でもそれで伊達ちゃんに嫌われたり、一緒にいてくれなくなったり、伊達ちゃんのその綺麗な顔見れなくなるの、やだもん。」 伊達ちゃんのきれいなきれいな顔がくしゃりと歪んだ。 「き、きれ、ぇ?」 「うん。綺麗。今まで見たどんなものより綺麗。」 俺の見た綺麗なものなんてせいぜい限られてるけど。でも、そんなものが全部色褪せちゃうくらい、綺麗で仕方なかった。 「ねぇ、なんで泣くの?」 「だっ、だって、」 物心ついた頃には右目は既に普通ではなくなっていて母親はそれを酷く嫌い、気色悪い、醜い、化け物、と罵り、またそれが彼を支配する言葉でもあった。 「うそ。伊達ちゃんこんなに綺麗だもの。」 「ちが、おっおれは、」 自らを傷つけようとする伊達ちゃんの言葉をキスで塞いで、その間にするりと眼帯をとり以前と変わらないその右目(目玉はないけど)にキスをした。 「ね。どっちを信じる?」 「───ッ」 「伊達ちゃんは、きれいだよ。」 涙を流す伊達ちゃんに向かって呆れるほどにきれいだと囁いた。 |