小説 | ナノ
呼吸もできない。



*嘔吐注意









3日ぶりに固形物を体内に放り込んだら、ほとんど原形を留めて佐助が持ってきた土産の饅頭みたいなのがぼとぼとと便器に落ちていった。


「あら〜大丈夫?」


背中をさすりながらそう問われてちらり、佐助を見たら少し酸素が回った気がした。それと同時に自分の吐き出した汚物の臭いに再び胃からこみ上げる物があり、そのまま吐き出した。


「わーもうただの水だね、水。なんかうっすら紫だねぇ。」


よしよしと頭を撫でられて、水の入ったコップを差し出される。少量含み、くちゅくちゅとして便器に吐き出す。


「大丈夫?もう出ない?」


その質問にこくりと頷いたらまたよしよしとされて狭いトイレの中抱きしめられてもう片方の手で背中をさすってもらった。


「ごめんね、帰ってくるの遅くなったね。本当は昨日帰ってきたかったんだけどねぇ。」

「いい…お前はなにも…悪くない…」


佐助がサークルの合宿から帰ってくるのは昨日のはずだった。でも悪天候だかなんだかで、航空機関が停止。帰るのが一日遅れた。それだけ。


「うん、でもごめんね。」

『佐助がそこにいないと呼吸ができない。』


合宿に行く前に政宗に言われた言葉。常々そんな感じではあったから知ってるよ、と頭を撫でた。それでも俺は合宿には参加しなくてはならなかったし(赤い人がね?)政宗も俺の合宿を止める為に言っているのではないとわかっていた。

毎朝、毎晩電話をして、明日帰るよ。と言ったら心底安心したように分かってる。と言った。

でもその日の晩から天候悪化。飛行機見送りと聞いた朝は溜息しか出なかった。


「政宗、」

『Ah?もう着いたのか?』

「ううん、それが飛行機運行見合わせみたいでね。こっちすごい天気悪くて。もう一泊になっちゃった。」

『…』

「…政宗?大丈夫?」

『あぁ、』

「ごめんね。」

『お前のせいじゃないだろ?』


政宗はその後から俺が帰るまでずぅっとベッドに潜っていた。冷蔵庫を開けると食材は一切減ってなくて、ミネラルウォーターのペットボトルが数本無くなっていただけだった。


「ご飯、食べれなかった?」

「…あぁ。」

「呼吸、できなかった?」

「あぁ。」


狭いトイレで背中をさすりながら訊ねると短い返事が返ってきた。素っ気ないようだけど、きゅ、と俺の服の裾を握っているのがとてつもなく可愛かった。


「途中まで…大丈夫だったんだ。お前が帰ってくる日はわかってたし。でも、」

「うん。一日延びちゃったもんね。余裕無くなっちゃうよね。」


よしよしごめんね、と頭をよしよししてあげる。


「政宗、好きだよ。」

「分かってる。」

「政宗も言って?」

「…すき…」

「かわいい。好き。愛してる。」


それでも俺には生活があって。政宗にも生活があって。いつでも一緒にいれるわけなくて。互いにそれを理解しているわけで。


「ごめんね。でも放してあげらんない。」










君が苦しんでいても、
俺は君を放せない。









あとがき

毎度のことながら病んでてすみません。佐政は病んでるのが好きなんです。ちなみにうっすら紫のげろは実際に出ます(笑)水でしたけど。


おつきあいありがとうございました。



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