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次の瞬間馬鹿にされた奴が伊達の髪を掴み、眼帯に手をかけた。いつものように何喰わぬ顔でやりすごすだけ。誰もがそう思って、先ほど悲鳴を上げていた女子達も今ではちゃっかり各自席に着き、様子を見ていた。


「───ッ!!」


やめろ、だか、よせ、だか。そんな叫び声が上がってクラスがしんとする。よくよく考えれば彼の声を聞いたのはそのときが初めてだった。
沈黙を破ったのは伊達の眼帯を取り去ったリーダー格だった。


「うっわ何これ…バケモンみてぇ」


その瞬間目を見開いていた伊達がカタカタと震え、よくわからない呻き声を上げだした。腕を掴んでた奴らもその異変に気付き、腕を離し後ずさる。
すると伊達は支えが無くなったからか、ずるずると椅子から滑り落ち、床に尻餅をついた。男達が伊達から離れたために近くに座っていた他の奴らにも、伊達の眼帯の下が露わになったようだ。するとさっきは「きゃー」とキレイな悲鳴を上げていた女子達からは、「うわ…」とか「げ…」とか品のない声が聞こえてきて、少しでも伊達から遠ざかりたいのか、ぎぎ、と机ごと後ろに下がった。
そうして傍観していた俺にもその右目が見えることになった。


「……」


そこにあったのは目じゃなかった。皮膚が爛れ、ケロイド状になったそれ。赤褐色のそこからうっすらと覗く隙間には、本来あるべき黒と白の球体は無かった。
美しい顔にアンバランスな右目。ぼうっとそのコントラストを見ていたら、白くて長い指がそのケロイドに伸びてガリガリと掻き毟りだした。

あ、これはやばいな。

なんとなくそう思って席を立ち、一歩近づく。予想外の出来事に緊張する周りをするりと抜けて、伊達の前にちょこりと身を屈めた。それでも彼はぐらぐら左目をゆらつかせながら、掻き毟るのを止めない。

「おーい」


呼びかけても反応は無し。仕方なくリーダー格の馬鹿から眼帯を奪って彼の前でちらつかせる。


「おーい」


それでもまだ彼の手は止まらない。だから、「あのさ、こんな馬鹿で屑な奴らの前でこんな姿曝したくないよね?」と言って手首を握り、引っ掻く動作を無理矢理止める。その隙に片手で眼帯を付け、「血出てるし保健室行こっか、」と。まだ震えているその手を握り、呆然とするクラスメイトを先ほどのようにすり抜ける。

滑らかな肌触りの彼の手をきゅ、と強く握り平穏は崩れるか、と残念に思った。本当は斜め後ろの彼を見ると残念でも何でもなかったけど。そう思うことにした。



(傍観主義はもう終わり。)
(終わらせたのは、君。)




→あとがき



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