小説 | ナノ
そんなの、知ってる。



「ちょっと、どしたの。」


雨の日の午後。帰宅部の俺様は早々に家に帰って、ずぶ濡れになって帰ってくるであろう部活馬鹿の同居人の為に風呂掃除をしてやってた。
しかし訪れたのは部活馬鹿の同居人ではなく。

その、恋人。


「寒いでしょ、入りなよ。」


上から下までボトボトで、見てるこっちが寒いくらい。なのにこの人、全然動かないし。入る気ないならインターホンならさないでよね。


「ちょっと〜ご近所さんに見られたら恥ずかしいでしょ、とりあえず入って。」


無理矢理に濡れた腕を引っ張って入る。よく見たら上履きのまま。意味わかんない。


「伊達ちゃんって頭おかしいんだね、」


バスルームに連れてきて、温かいシャワーを制服の上からかけた。


「服は後で貸すから。あ、下着は旦那のでいい?」


服も旦那のやつの方がいいかなぁと考えながら、シャワーを固定して、勝手に服を脱がした。なにこの子、無抵抗。制服のカッターを剥ぐと、ブランドもののロンT。やっぱ俺様の服貸そ。


「ね〜喧嘩でもしたの?はい、ばんざーい。」


ロンTを引っ張って脱がせた。男にしたらこの肌、白すぎない?


「伊達ちゃん色白いね〜」


ついついと胸の近くに指を這わせる。ほんの少し眉間に寄った皺が目に入り、同時に濡れた眼帯に目がいった。


「不衛生、なんじゃない?」


肌を触るのと同じようにつ、と眼帯に触れたら、手をぐいって下げられた。


「なに、触んなって?」

「俺、汚いから。」


初めて会ったときから思ってたけど、この人すごい自虐的。右目のこと気にしてんのはわかるけどさ。どう考えたってあんた綺麗でしょ。


「あのさぁ、そんなことばっか言ってて旦那に申し訳ないって思わないの?汚い人間愛してる旦那はなんなわけ?」


(あ…地雷踏んだ?)


泣かせてしまった。相変わらずシャワーが流れてるから、どれが涙かなんて、わかんないんだけど。


「ねぇ伊達ちゃん、もっと自分を好きになってごらんよ?旦那も喜ぶよ。」


シャワーを止めて、バスルームから出る。下脱がせなきゃ、と思い出してベルトに手をかけた。まさにその瞬間。

「政宗殿っ!!」

「旦那ぁ」


予想通り、ずぶ濡れ。


「ぬぉ、佐助…何を…」

「あー勘違いしないでよぉ?風邪引かせちゃ駄目でしょ。ほら、旦那も一緒に温まってきたら?」

「うむ。その前に、政宗殿。」


伊達ちゃんの肩がびくり、と揺れた。


「政宗殿は、美しい。誰が何と言おうと、美しい。貴方が御自分を醜いとお嫌いになられても。某は、そんな貴方の心までお慕い申しております!!」


俺様の存在はどこへやら。ぎゅうっと旦那が抱きしめれば、ごめんなさい、と嗚咽混じりの声が聞こえ始めた。それを合図にこっそり廊下に出る。濡れた廊下に目を細めて、無視をした。


(美しい、だなんて、知ってるっつーの)


















それでも彼の心を満たせるのはあの人だけ。だから俺様は知らないふりをする。
彼が美しいことも、自分が彼に抱く気持ちにも。











お付き合いありがとうございました!



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