小説 | ナノ
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▼飼育のつづき!アニキがひどい人!


今まで歩んできた道に、何ら不満などなかった。引っ込み思案だった性格もいつの間にか改善されて、自分を慕ってくれる奴らも増えた。女にだってモテた。きっと俺は、自分で言うのもなんだが、恵まれていたんだろう。



政宗を初めて見たのは大学の入学式。代わり映えのしないスーツ姿ばかりの中で政宗を意識したのは、同じ眼帯だったから、というごく単純な理由だ。席は近かったが話しかける程でもなかった為、その日は名前も知らぬままで終わった。

名前を知ったのは、その後。

折角大学に入ったんだからサークルのひとつくらい所属しとこうと思い、友達に連れられるまま、新歓に参加した。楽しくなかったわけじゃねぇが、いまいち周りのノリについていけず、端っこの席に移動すると、目の前に俺と同様ぼんやり周りを見ているいつかの眼帯君の姿があった。

「あ、」
「ん?」

真正面から見たその顔は、一言で表すなら美人、だった。眼帯にかかった髪をさらりと上げて、名前は?と聞かれた。

「長曾我部ってんだ。元親でいいぜ。」
「元親な。俺は伊達政宗。」

浮いた存在の俺たちは、驚くほど意気投合。タダ酒をいいことに周りの存在も忘れて飲んだ。

「おいおい、大丈夫かよ」
「んう、」

新歓がお開きになる前に、俺と政宗は会場を出た。というのも政宗が酒に弱いにも関わらずなかなかのペースで飲んだ為、完全に潰れちまったからだ。

「取り敢えずうちに泊まってけ、な?」
「んー」

体の熱い政宗をベッドに寝かせると、とろんとした目と視線が合った。

(うっ、こいつ…)

赤い頬にうっすら開いた唇、唇から覗く濡れた舌。意識すればするほど、下半身によからぬ熱が溜まるのがわかり、俺はぶんぶんと頭を振ると、枕元に水を置いてやってからシャワーを浴びた。

その日が、初めて政宗の名を知り、初めて会話をし、初めて男に欲情した日だった。

それからは、政宗をどうにかして自分のものに出来ないかと考える毎日だった。一般的に言うならば、男が男を本気で好きになるなんて考えられねぇし、俺だってそう思っていた。だが、政宗を前にすると俺にはそんな常識や体裁なんて何一つ意味をなさなかった。衝動的とも言える、愛したい、愛して欲しい、という感情が溢れるだけだ。

そして俺の思惑を知ってか知らずか、政宗は家にいたくないと俺の家へ転がり込んできた。俺としては願ってもないことで、兎に角政宗をかわいがってやった。嫌がることはしない、でも時折叱ってやる。そうやっていつの間にか懐いた政宗は信じられないことに俺のことを好きだと言った。照れたように、でも一生懸命に伝えてくるあの顔を忘れることは出来ない。俺と政宗は晴れて恋人となった。

政宗は、友人こそ少なかったものの、一度仲良くなれば深い付き合いをするタイプの人間だった。俺としては面白くないことではあるが、いくら恋人だからって交友関係に口を出すほど面倒くせぇ奴にはなりたくない。俺にだって付き合いはあるし、政宗だってそうだと自分に言い聞かせ、俺はふつふつと沸く嫉妬心に気付かないふりをした。

「元親、ちょっと出かけてくる」

勢い良く家を飛び出した政宗は、いつもより明るい表情だった。玄関から政宗の後ろ姿を追う。どこか楽しそうな雰囲気が妙に気がかりで、俺は悪趣味だと思いながらも政宗をつけることにした。歩くこと数分。

「小十郎!」
「政宗様、」

駅の手前で息をのんだ。小十郎と呼ばれた男が男らしい腕で政宗を抱きしめると、政宗も何も言わずにその背に腕を回した。お互いの存在を確かめ合うような抱擁に、俺はふつふつと沸き上がる何かが、どんどんと大きくなるのを感じた。
抱き合ってたからといって浮気とは限らない。政宗は外国暮らしだからこれくらいのスキンシップは当然なのかもしれない。帰ったら聞いてみよう。二人に背を向けて俺は元来た道を戻る。

二人が抱き合ったシーンが、頭から離れない。結論を出すのは本人に聞いてからでいいじゃないかと思うのに、どこかでそれを待てない自分がいる。

「あ…」

目に入ったのは、ペットショップ。
籠の中から静かにこちらを見ている動物たち。俺は気が付けば店内に足を踏み入れていた。

「いらっしゃいませー」

間の抜けた店員の声。動物のにおい。俺の目の先には、ペットを繋ぐ首輪があった。

「首輪をお探しですか?」
「あ、いえ」
「猫ちゃんでしたらこちら、わんちゃんでしたらこちらからですね。」

店員が指さす所に、俺の望むものはない。当たり前だ。あるわけがない。それなのに俺の口は勝手に動いた。

「人間用ってありますか」

店員の唖然とした顔で正気に戻った俺は足早に店を出た。



思えばそれが全てだ。
政宗は家に帰ってからも何も言わなかった。でもその日、セックスをしたって政宗は嫌がらなかったし、痕もなかった。只の杞憂だと思いはするものの、募る不信感と、嫉妬心。だって二人は抱き合っていた。付き合ってないにしろ、自分以外の誰かが政宗に触れるなんて駄目だ。あの男だけじゃない。

「政宗…」

そこでまともな思考は途切れる。
首のサイズを測るのは簡単だった。色は自分のイメージカラー。物が届いてもすぐには渡さなかった。いや、渡せなかった。人間の尊厳を踏みにじるようなこと出来るかと、思いとどまった。

「小十郎、」

でも再びその名を聞いた。電話に夢中なのか俺が帰ったことにすら気が付いていない。

「またな」

またって、次はいつだ。前はいつだったんだ。ふつふつと沸く感情は、いつの間にか溢れ出す。俺は静かに自室に戻り、引き出しの奥底から首輪を取り出した。





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