※売れっ子デザイナー佐助と雪男伊達 「きもちい?」 がらがらと、水をはった浴槽に氷を流し込む。水温が下がって、機嫌がよくなったのか、政宗はうっすらと笑った。 政宗と出会ったのは、寒すぎる、冬の一日。誰しもがコートを羽織り、マフラーを巻くような寒い街の中で、ぶかぶかの小汚いカッターシャツ一枚でふらふら歩いていたのが政宗だった。道行く人は見て見ぬふりをして彼の前を素通りする。俺だってそのつもりで彼の前を通った。でも、彼のその端正な顔つきを見てしまえば、職業柄というのか、放ってなんておけなかった。 「佐助って、いっぱい服持ってんだな。」 浴室の前に彼の服を準備していると、湯船にもたれ掛かった彼にそう言われた。 「まぁ一応デザイナーだし。」 一応とか言ってるけど、業界ではわりと有名。 「デザイナーって服いっぱい持ってるのか?」 「人によるんじゃない?」 俺は基本的に作れば誰にだって売ってしまうし、依頼されれば大抵依頼者の好み通りに作り、我を通すこともない。それでもやっぱり人を選ぶような、誰にでも着てもらいたくないような、そういう服だって作る。そんな服は大抵店には出さず、いつか自分が心底着てほしいと思う人間に出会うときまで…と、自宅に眠らせていた。まぁ結果的に言うと俺のデザイナーたる信念がこうして政宗を引き取った経緯となるわけだけど。 「おまえの服、売れねぇの?」 「ここにあるやつはね。」 売れないんじゃなくて売らないんだけど。 「この服は、誰彼簡単に着れるものじゃないの。」 「俺着てるぜ?」 「政宗は特別だからね。」 政宗を初めてみた瞬間に、ああこの人だと思った。白い肌に長い手足、華奢すぎないのに細い腰、隻眼だからこそ、なのか切れ長の鋭い眼、どれをとっても俺の理想とするモデルそのもので、俺はあの日彼の腕をつかんでこの自宅まで連れ帰ってきた。 |