「綺麗なお姉さんと一日デートしない?」 佐助はにこりと笑いながら放たれたその前田の言葉に丁寧な断りを入れた。勿論即座に。そして休憩終わりますから、と古いパイプ椅子から立ち上がる。 「ちょっとちょっと佐助勘違いしてるよ。」 「何がですか。」 立ち上がった佐助の腕を慌てて掴んだ前田自身も勢いで立ち上がる。 「デートって言ったって何も肉体関係持てって言ってんじゃないよ。」 「は、」 前田が言うにはこうだ。 前田は交友関係が広い為、その人脈を駆使してよく合コンのセッティングなどをするのだそうだ。そんな中、学生だけではなく社会人の合コンまでセッティングするようになったある日、とある社会人女性に頼まれたのだという。 『若い男の子とふたりっきりで遊びたいなぁ』 遊ぶと言ったって、何もホテルに行くわけではない。おいしいレストランに行って、その後バーにでも行って、彼女の気の済むまで話に相槌を打てばよい。それがその女性が求めていることなのだという。 「まぁ出張ホスト的な感じなのかな。」 お金はあるけど使わない女の人って結構いるからね、という口振りの前田を見るとどうやらそういう類の頼みごとは多いらしい。 「夜の数時間拘束されるだけで2万だよ?しかもおいしい物食べさしてもらえるし。」 「…先輩がいけばいいじゃないですか。」 「あー俺は駄目なんだよ。友達、みたいなもんだからさ。刺激足りないっていうのかな?」 兎に角さ、やりたくなったら電話してくれよ、と休憩室を出ていく前田を、佐助は少しも理解出来ないでいた。前田は確かに佐助が同棲していることを知っている筈なのである。にもかかわらずアルバイトとはいえ女性との交際を求めてくる。 「…俺にはできないよ。」 二人がお金に困っているのは確かなことだが、政宗を悲しませるようなことだけは出来ないのであった。 |